他愛もない日常

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 都合のいい女も都合のいい男もごめんだけれど、都合がいい友人というのはいると思う。それは時に、鬱々とした日々を送るスパイスになったり、癒しになったり、発散にもなる。こういう友人は、社会人になって作るのは意外と難しいとも思う。それこそ、三十も越えてから作るとなれば尚更だ。  本郷さんと仲良くなったのはいくつの頃からだっただろう。最初は友人の椎名とカラオケに行くことになって、そうして合流してみたら知らない男が一緒に車に乗っていたのだった。  椎名とは高卒で就職した喫茶店で、彼がバイトをしていた頃からの仲だ。もうほかのバイトとは縁が切れているが、椎名だけはなぜかずっと友人関係が続いている。それでも私たちは年に1・2度しか会わない。そんな椎名とのやはり久しぶりのカラオケで、本郷さんと出会った。本郷さんは二つ年下だが、連れ周りのみんなからそう呼ばれているので、あだ名みたいなものになっている。椎名と本郷さんは同級生だ。  元々人見知りの本郷さんと、どのようにして仲良くなったのかの記憶はまるでない。それは本郷さんも同じようで、その一回で仲良くなれるような性格ではないと思うのだが、本郷さんとはそれからもう二人で会った記憶しかないのだからすごいなと思う。彼の人見知りは、私が出会ってきたどの人よりも深刻で、彼女どころか新しい友人を作ることすらままならないのをもう知っているのだから。  そんな本郷さんは、いつも忘れた頃に連絡をしてくる。 「井原ちゃん、今なにしてる?どうせ暇でしょー」  これはもう本郷さんの口癖なんじゃないかというほどの誘い文句だ。 「どうせ暇って失礼だな。まぁ暇だけど」  私は笑いながらそう答える。たしかに暇をしている。私はいつだってお尻に根が生えていて、友人からの誘いでもないと外に出る習慣がない。家に食材がなくなっても、面倒なら食べなければいいか、という杜撰な性格をしていた。仕事以外に入る予定も、最早年に1・2回の椎名と思い立った時にやってくる本郷さんくらいなものだった。 「いやぁ、この映画観に行くやついなくて困ってたんだよね!助かったよー」  本郷さんはゆるっとそんなことを言いながら、丁度二人で映画館の扉を出るところだった。私は大抵のものを食わず嫌いしないので、誘われればコメディでもアクションでもホラーでも観に行ける。ポップコーンとドリンクというベタな組み合わせを私たちはいつもする。塩味とキャラメル味のハーフ&ハーフ。飽き性で凝り性なB型特有の要素を私たちは見事に持ち合わせ、ものの見事に合うものが一致していたのだった。所謂、オタク友達といったところか。
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