EPISODE.1 ケーンのスミカ

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EPISODE.1 ケーンのスミカ

 おつかいケーンと出会った日。その午後……。  ワタシ、なんか、別の世界にワープしたみたいになっていた。  あしもとがふわふわして、カゼひいた時みたいに耳たぶも熱くなっていて、島に転校してきたことさえ忘れてしまったぐらい……。  普通にしゃべるイヌ……。しかも、ワタシを無視するみたいに去って……。  ざけんな!  そう思いながら、ケーンがトイレペ・ハーフを背負って、坂を登っていく姿をボーゼンと見ていたの。  しばらくして、ワレ?(こくびをかしげる)ワシ?アレ?  ……ええと、ワレにかえったワタシは、坂道をダッシュで駆けのぼっていた。おつかいケーンを見失うまいと。  ─アイツ、あやしいよ。とっても。  胸のざわざわが、追いかけろと命令していた。  ─アイツ、ぜったい、人にあかせない秘密を持っているはず!  そんな予感にとらわれて、ワレ?(こくびをかしげる)ワシ?アレ?  ……ええと、ワレを忘れていたのかも。  でも、ちょっと走ったら、すぐに追いついちゃった。  なになに、たいしたことないじゃん、イヌのくせに。  ふふ、この俊足ナナちゃんをなめるなよ!前の学校でも学年代表の、リレーのアンカーだったんだからね。  そう思いながら、気づかれないように、あやしいイヌの隠れ家?オヤカタのアジト?  ……いわゆるアクのソークツ的な?  とりあえず、ケーンのスミカまで追跡したわけ。   ところが、そこには、カワイイ三角屋根の、小さな白い家があった。  ちょうど、島の中腹のあたり。いちばん、見晴らしのいいトコロ。  コーギー犬の雑種、おつかいケーンは、その白い家の扉の前で止まった。  そしたら、なんと……。  ドアの覗き穴みたいな、レンズ的なところから赤い光が出て、ヴィームって左右に往復したのね。まるで、イヌのサイズを確認するみたいに。  えっ!?……マジで。  なんか、コワいSF映画的な?メン・イン・なんとか的な?……そんなのに出てくる赤いレーザー光線みたいに。  そしたら、次にウィーンって扉の下のところが自動ドアみたいに開いたの。ちょうど、イヌがトイレペ・ハーフを背負って通れるぐらいの隙間で。  おかしいじゃん!  ちょうどイヌがトイレペ・ハーフを背負って通れるぐらいの入口って?  それって、おつかい犬専用の自動ドアってことじゃない!  しかも、レーザー・スキャン?……みたいなことまでして。  ぜったい、あやしいよ。  そんな装置、映画だったら、いわゆる秘密基地、アクのソークツ的なところにしかないはず。ここは、やっぱり、オヤカタのアジトなんだ。  ……ってことは、オヤカタが、いわゆるラスボス?  あやしいのは、それだけじゃなかった。  こんどは赤いレーザー光線がワタシの方までのびてきて、誰かを探すみたいにヴィーンって左右に往復しはじめた。  ワタシはとっさに塀の陰にしゃがんで、見つからないように息を止めたの。  そのレーザー・サーチ?  ……それが終わっても、しばらく動けないでいた。 「ヤバイ……ヤバすぎるでしょ!」  ワタシはフリーズしながら、思わずひとりごとを言ってた。  あっ、マジでヤバイ!  ……ママに「女の子がヤバイという言葉を使っちゃダメでしょ!」って言われてたんだ。なのに、ヤバイって思って、それを口に出してた。  ママは「ヤバイ」を使うと、すごく怒るの。ハシタナイでしょ、って。  だから、普段は気をつけてる。前の学校でクラスメートが連発しても、自分は言わないようにしてたんだけど……。  でも、今はしかたないよ。キンキュウ・ジタイだからね。本当にヤバイものを見つけちゃったんだからね。……ママにそう説明したら、ゆるしてくれるかな?  そんなことを考えながら、ワタシ、塀の陰で動けなくなってた。  心臓は、バクバク。背中は、ヒヤヒヤ。熱くて、冷たい、完全フリーズ。  どうしよう?このまま、何もなかったかのように帰った方がいいかな。  そうも思ったけど……。  せっかく、ここまでヒミツにせまったのに、ビビって帰るのは、くやしいじゃん!  だから、勇気をふりしぼって立ち上がり、そっと白い家をのぞいてみた。  小さな花壇のある庭が見えて、その上に出窓もある。カーテンは開けっ放し。  あそこからなら、家の中が見えるかも。  ……でも、窓の外からヒトんちをのぞくなんて。……ヘンタイ?……と思われるかな?  いや、いや、いや。違うよ。  ここはヒトんち、じゃなくて、オヤカタのアジトだから!  アクのソークツかもしれないんだし、ちゃんと確かめないと。これは、一種のソーサだよ。  セカイヘーワのための。……まあ、少なくとも、島のヘーワのために。  ワタシは勝手に庭へ入って、窓の外から家の中をのぞいてみた。  そしたら……いた、いた、いた!あやしいイヌ、おつかいケーン!  ビゼン屋のおじさんが結んでくれたナイロンのひもを器用にはずして、荷物をおろしているじゃない。それから、床にふせて、大きなためいきをついた。  さすがに、疲れたのかな?オヤカタは、いないのかな?  そんなことを思いながら、ガンミしていた。  そしたら、そしたら、そしたら……。  ………………………………………………………………………………………………………  ………………………………………………………………………………………………………  とんでもないことが、ワタシの目の前でおこったの!?  おつかいケーンが右の前アシで自分のホッペを押すと……。  プシュ、って。そのあと、ウィーン、ガシャ、って。  キカイみたいなヘンな音がしたと思ったら、長い鼻と口が前の方にとれちゃって、えーと、なんというか、ヘルメットのバイザー?……みたいに頭の上まであがったの。  コーギーの長い鼻と口がだよ!?  ウソでしょ!?なに、それ!  プシュ、ウィーン、ガシャ……って、鼻と口だけロボかよ!  そんな風に叫びそうになった。  でも、そのあと、もっと驚くことがおこった。  ロボ風にコーギーの長い鼻と口が取れた後、そこになんと……ナント、ナント、ナント  ………………………………………………………………………………………………………  ………………………………………………………………………………………………………  ………………………………………………………………………………………………………  何が出てきたと思う?  ネコの顔が現れたの。 「ええっ!?……えええ─────」  ワタシは思わず叫んでた。  出窓のガラスに顔をへばりつけたまま……。ヨダレも出てたかも……。  コーギーの顔の下に、眼がくりっとした、茶トラ?……の、ネコの顔が隠れてた。  ええっ、なに、それ!意味わかんない!  ……アニマル・コスプレ?  とにかく、茶トラのネコがコーギーのロボ風マスクをかぶっていたらしい。  しかも、ヒトの言葉をしゃべり、おつかいもしていた……。 「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!ヤバすぎるでしょ!」  また禁止ワードを叫んでた。  そこからは頭が真っ白になって、なんか記憶もアヤフヤになってしまった。  でも、これだけは覚えてる。  ワタシがガラスにへばりついて禁止ワードを叫んでしまったから、おつかいケーンが……いや、茶トラのネコが……いや、いや、ヘンタイ・アニマル・コスプレイヤー?  が、振り向いて、ギロって睨んだのね。  眼が合っちゃった……。  ─ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!……ここから、すぐに逃げなきゃ!アクのソークツにつかまって、ゴーモンされるかも!  ワタシは出窓のところから走り出した。  そしたら、おつかいケーンもすばやくガシャ・ウィーン・プシュってコーギーの長い鼻と口を再ソーチャクして動き出す。眼がすごく怒っていて、それがワタシの横目にも見えていた。  でも、庭から出たところで、ワタシは花壇のレンガにつまづいて転んでしまったの。  そしたら、また、玄関のおつかい犬専用自動ドアがウィーンって開いて、ケーンが飛び出してきた。コーギーの姿で! 「キミ、さっきの子だよね!」  眼が怒ってる。番犬的なカンジで……。 「ナナさん、だっけ?……ここで、なにしてるの?」 「……なんにも、してないよ。……なんか、道に迷っちゃって。……ここに……島には、きたばかりだからさ」  ワタシは起き上がれもしないで、ただ、ソラとぼける。  もちろん、右手で右の耳たぶをさわってた。ママにしかられて、苦しまぎれのいいわけをするみたいに……。 「ウソ言わないで。窓の外から、家の中をのぞいていたじゃないか!」 「……あ、いや、それは……誰か道を教えてくれる人がいないかなぁって思って。……そしたら、アナタがいたから……びっくりして……」 「あとをつけてきたんだね、びぜんヤさんのとこから?」 「……ち、ちがうよ」 「いや、ぜったい、そうだね。……ストーカーだ」 「ちがうってば!」  ワタシはパニックになってた。  もう、頭がこんらんして、わけがわからなくなっていたし、あやしいイヌ?……あやしいネコ?ヘンタイ・アニマル・コスプレイヤー?  ……どれなのか、わからないようなヤツに、ストーカーよばわりまでされて、ぷつんとキレちゃった。 「ア、アナタこそ、なによ!ネコのくせに、コーギーのマネなんかして!ネコがイヌのコスプレするなんて聞いたことないわよ!ヘンタイ!アニマル!コスプレイヤー!……人の言葉までしゃべって!ワタシをストーカーよばわりして!信じられない!」  完全に逆ギレの逆シュウだった。 「そうか、キミ、見たんだね。ボクのヒミツを見てしまったんだね!」  ケーンもキレていたみたい。 「……み、見てないよ、ヒミツなんて」 「完全に見た人しか、わからないこと、言ってたじゃないか!ウソつき!キミ、悪い人なんだね?」  ケーンが低く身構えた。  ああ、噛み殺されるかも……。  そのぐらい怖い目だった。  そして、カンネンした次の瞬間、またしても信じられないことが起こった。 「ケーン、なにやってるんだい?」  ワタシの後ろから声が聞こえてくる。 「あ、オヤカタぁ!その子、ウチにしのびこんだワルモノです!」  ケーンが急にからだを起こしてほえる。   えっ、オヤカタ?……ラスボス?  ワタシがワルモノ?挟み撃ちにされるってこと?  ……ゼッタイ・ゼツメイのヒジョウ・ジタイ?  ああ、オワタ。やっぱり、ここはアクのソークツだったんだ。ごめんね、パパ、ママ。ナナちゃん、もう、だめみたい……。  そう思ったとたん、こんどこそ、ワタシは本当に気を失った。
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