6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
調査にあたり相談したのは、アニタの養父母。元高位冒険者のふたりならば、有用なアドバイスを貰えると思い、教えを乞うた。
アニタがくちを挟んだため話がこじれたことは叱られたが、クエストを受注することには肯定的だったのは意外である。
シリウスがそう言うと、トーニャは笑って言った。
「シリルも酒場でばかり歌っていないで、たまには野外で声を響かせる練習をしたほうがいいんじゃないかな」
「そろそろ実践してもいい頃合いだ。ファリドだって、そのつもりでこの依頼をシー坊に振ったんだろう」
問題ないと言いたげに笑い、いくつかの助言を受ける。シリウスは、トーニャから風魔法を教わっているので、その扱い方についてが主な内容だった。
「アニーはシリルの補助。歌う間は無防備になるから、声を途切れさせないよう、近寄ってくる魔物を撃退すること」
「あたしで大丈夫かな」
「防具屋に行って、耐魔グローブを買ってきな。ケチケチせず、きちんと瘴気避けが付与された物にするんだよ」
それぞれに合った防具を教えてもらい、こうして森にやってきた。
ヘイダルと合流し、自分は手を貸さないと明言したあと、すこし離れて付いてくる。アニタは不満そうだったが、シリウスは気にならない。不正がないか見ていてくれたほうがずっといい。
入ってすぐ、空気の淀みを感じた。草木を揺らす風の音も濁っている。
「アニー、穢れ払いの唄を歌うから、すこしだけ我慢してて」
息を吸い、密やかに歌いはじめる。
最初の一音は静かに。
徐々に声に魔力を乗せ、音を厚くしていく。
ここにはいない観客へ向けて手を差し伸べる仕草をすると、手のひらから風が生まれた。右に左に、あるいは天に向かって手を伸ばし、応じて風が渡り、声が、歌が、森の奥へ響いていく。
最初のコメントを投稿しよう!