歌姫の冒険譚 ~壊し屋アニタと銀の歌姫~

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 最後の音が伸びやかに響く。  楽器を思わせるその声が静まったころ、あれほど騒がしかった魔の気配は消え去っていた。魔物の脅威が去ったことで、隠れていた鳥や獣も戻ってくることだろう。  息を整えていると、ほぅと感嘆の吐息を漏らした幼なじみの声が耳に届いた。 「すごいねシリルの歌。月の女神ってかんじ」 「女神……。やっぱり切ったほうがいいんじゃないかな、この髪」 「なに言ってんのさ。すっごく綺麗な銀髪なんだから勿体ないこと言わない。あたしなんて、こーんなだよ?」  自身の短い髪を引っ張っているアニタ。彼女は赤煉瓦色と称するが、昼間の陽光を浴びると黄金色になるし、夕暮れ時にはあかがね色に輝くところも魅力的だとシリウスは思う。 「アニーは髪を伸ばしたりはしないの?」 「あたしはいいや。邪魔だし」  アニタは重力操作の魔力を持った冒険者であるため、長い髪は邪魔になるかもしれないが、シリウスだって冒険者の端くれだ。初級の資格を得てようやく一歩を踏み出したばかりとはいえ、ギルドに名を置く冒険者には違いない。  こうして魔の森に来ているのだって、己の女じみた姿が発端になっていることを思えば、いっそ切ってしまったほうがすっきりすると思うのだが、アニタはよしとしない。 「あんなやつの言うこと、シリルは気にしなくていいんだ」 「でも、そのせいでこんな任務を割り振られちゃってさ。いまからでも遅くないから引き揚げて――」 「これはあたしにも責任があるの。あいつを煽って必要以上に怒らせたんだから、一緒に仕事をする」
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