探偵は遊戯がお好き

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「ってかいつの間にか四光揃ってたわ。まだこいこいだ」 「まだやるのか。余裕のつもりか? 後悔すんなよ?」  倉石の判断に柳川はまた挑戦的な笑みを浮かべる。四光は八点入るので、ここで勝負すれば引き分けだ。だが、調子に乗ってみる。せっかくなら五光を揃えて勝ちたい。  しかし柳川の取り札も油断ならない。リーチの役が多数ある。知らず心拍数が上がってきた。 「っ! くそ。全然取れねぇ…」  しかしそのあと一枚が取れないようだ。それはこちらも同じでやきもきしてしまう。こいこいをしている間に役を作られるか、それともこちらが柳を取って役を作れるか、このドキドキがたまらない。  そして……。 「っしゃあああ‼ 五光ぉぉぉ‼」 「まじかよ、ちくしょ~~~~‼」  場に出た『柳に小野道風』の札に倉石が柳のカス札を叩きつけると、柳川は手札を投げ出し、後ろに倒れこんだ。 「おっしゃあああ! ジンに初めて勝ったかも! めちゃくちゃ爽快だわ!」  両手を天に突き出しながら倉石も後ろに倒れこんだ。後ろで本の束が倒れるのが分かったが、構うものか、と倒れこむ。 「……くっ」 「……ふっ」 「はっはっはっはっは……」 「へっへっへっへっへ……」  寝ころんだまま二人は自然と笑いだしていた。まるで河原で殴り合った高校生のような気分だ(実際したことはないが)。 (たまにはいいな、こういうのも)  この二か月は事件の捜査で忙しく、事件解決後は同僚の逮捕と職場での居心地の悪さにずっと気分が沈んでいた。こんなに笑ったのは久しぶりだった。 「なぁ、ジン」  ひとしきり笑った後、よっこらせと身体を起こす。 「なんだ? コウ」  柳川も同じように身体を起こした。 「時々ゲームしにきていいか? 昔みたいに」 「へっ。遠慮すんなよ。いつでも来いよ」  そう言って柳川は得意げに笑ってこぶしを突き出した。倉石も笑ってこぶしを合わせる。  そのこぶしの真下では倉石が叩きつけたままになっている柳のカス札がカーテンから差し込む光を受けて鈍く光っていた。 ———fin
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