探偵は遊戯がお好き

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「………以上の点を踏まえて捜査に当たるように。これ以上の犠牲は増やしてはならん。各員全力を尽くせ! 以上! 解散!」  力強い、しかしありきたりな言葉と共に椅子に座っていた人間がざわざわと立ち上がり始めた。 (ならこんな会議なんかやってないで聞き込みにでも行った方がいいっつぅの…)  心の中で不満を述べながら倉石康太も同じように立ち上がり、会議室の出口を目指す。 (えーと午後からは現場周辺の聞き込みに行って…いやその前にレシートの整理した方がいいか…? この時間帯に聞き込みしても微妙か…? いやいや…)  廊下を歩きながらこれからの予定を頭の中で組み立てていると、ふいに後ろから肩をたたかれた。ビクンとふるえて後ろを振り向くと同僚の霧島義和が立っていた。 「あ、わりーわりー。驚かしたか?」 「なんだよ、霧島。別にビビってねーよ」 「んなこたねえだろ。めっちゃビクッてしてたじゃん」 「刑事だから仕方ないだろ。それより何の用だよ」  刑事なら予期しない接触は反射的に警戒するものだ。それをこの男は生来の図太さなのかなんなのかわからないらしい。鈍感は羨ましい。 「いや会議終わったんなら昼飯行かね?と思ってさ」 「そんな暇ねーよ」  やることが大量にあるのだ。昼休みと言えど休んでいる暇はない。それに倉石は昨日から寝ていない。仮に休む時間があっても同僚との食事より菓子パンを食べて仮眠する方を選ぶ。 「そっか。久しぶりにお前と話せるかと思ったんだけど…まぁいいか。なんか手伝えることあったら言えよ~」    じゃあな~、と言いながら霧島は向こうに歩いて行った。それを見て倉石は自然とため息を吐く。  彼は今回の事件には関わっていない。結構大きな事件だがそれでも彼には彼の仕事がある。それを頭で分かってはいても自然ともやもやした気持ちが湧いてくるのは止められない。 「全く……仕事増やすんじゃねぇよ。別の意味で殺意が湧くわ…」  倉石は独り言をつぶやいて手に持った資料に目を落とす。それは正義感からでも被害者を思っての言葉でもなく。刑事の仕事を増やす連続殺人犯への個人的な恨み言だった。
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