Ⅱ シェレイドの虹

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Ⅱ シェレイドの虹

 シェレイドの村には、きれいな湖もあるんだよ。 その湖は、山でとれる宝石と同じ緑色をしているんだ。 だから、村の人みなはエメラルディ・レイクとよんでいるみたい。 そこはシェレイドがいちばん好きな場所なんだよ。 湖のそばの木には、黄緑色のきれいな小鳥がくるからね。 シェレイドは、そのカナリヤという小鳥たちとよくあそぶんだ。 時には風の妖精も来たりして、カナリヤといっしょに歌っておどるんだよ。  シェレイドがカナリヤとあそぶ場所に、ある日、一人の女の子がすわっていたんだ。 その子はひとりで湖のふちにすわって、泣いてた。 女の子のお父さんが、エメラルドをほっているとき、山くずれがおきて、 かえってこられなくなってしまったからなんだ。 シェレイドはびっくりして、木のかげにかくれて、 女の子のうしろすがたを見ていたよ。 その子は宝石とおなじ緑色の湖をみながら、ずっと、しくしく泣いている。 シェレイドもなんだか、とてもかなしくなって、 ずっと、そのせなかを見ていたんだ。 なんとか、女の子の涙をとめてあげることができないのかな? そんなことを、かんがえながらね。  君がシェレイドだったら、どうする? 女の子のために、なにかしてあげられるかな? シェレイドは、おもいきって手のひらに、小さなたつまきをつくってみたんだ。 その小さなたつまきをふうっとふいて 湖にむかってコマみたいに飛ばしたんだよ。 そしたら、シェレイドのたつまきは、湖の水を空にまきあげてしまった。 でも、たつまきは小さかったから、すぐにきえて、 そのあと、こまかい水(みず)のつぶが空にまいあがって、ふってきたよ。  女の子はそれを見て、びっくりしたみたい。 目のまえで、きゅうにおてんき雨がふりだしたみたいだったからね。 それで泣きやんだんだ。    雨は、シェレイドの小さなたつまきがまきあげた エメラルディ・レイクの水だったから、すぐにやんだよ。 そのあとに、七色の小さな虹が、かかったんだ。 シェレイドは、もういちど、手のうえであたたかい春風をつくって、 その虹にふきかけた。 そしたら、こんどは、その風に虹とカナリヤたちの色ががうつって、 なんと八色(なないろ)にかがやいたんだ。 虹色の風は、女の子のまわりをまわって、 シェレイドの風の歌にさそわれた小鳥が、いっぱいあつまってきたよ。 カナリヤたちは、女の子のかたにとまって、 なぐさめるように歌をさえずりはじめた。 泣きやんだ女の子は、虹を見ながら、 小鳥たちといっしょに歌をうたいはじめたよ。  シェレイドは、そのようすを 木のかげから見て、うれしくなった。 だから、くすっとわらったんだ。 そしたら、女の子が、それに気づいて、急にふりむいた。 シェレイドは、どきっとして、おもわず空色マントのフードをかぶったよ。 それから、長いマントをなびかせて、風とおどるように走っていったんだ。 きっと、はずかしかったんだろうね。 でも、女の子は、シェレイドが八色の虹をつくってくれたとわかって、 空色マントのせなかに「どうもありがとう」と、お礼をいったんだ。 もしも、君がシェレイドだったら、きっと、おんなじことをしてあげたんじゃないかな。  シェレイドは、きょうも丘の上にこしかけて風を見てるんだ。 いつもと同じように風とお話してるはずだよ。 大きなたつまきがおこったりして、 村の人びとが、かなしまないようにね。 シェレイドは、風使いだからさ。 君のおうちのまどから風の音がきこえてきたら カーテンをあけてごらんよ。 るるる、りらら、りるりらら。 まどのそとで、風のシェレイドが、歌っているかもしれないよ。 もし、君がシェレイドをきにいってくれたら、 きょうのよる、風の魔法の夢をみられるといいね。
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