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勇者と幼馴染み
田舎のマーク村のただの宿屋の娘に過ぎなかったミーレスは、いつものように日常を送っていた。
その時点では、特別珍しい事もなかったように思える。旅人が宿屋に泊まりに来ただけだ。
「ミーレス、僕の顔をジロジロ見て、どうかしたの?」
「え…?」
ミーレスに異変が起きたのは、幼馴染みのラスターと遭遇した瞬間。
ぼんやりしたラスターと目が合った瞬間、雷が落ちたような衝撃が走った。
その瞬間、ミーレスは己の前世を思い出した。
平凡な日本人女性だった事。
疲れ果てていた時に事故で死んだ事。
前世で異世界作品ブームが起きていた事は知っていたが、たまにかじる程度でそれほど詳しくはなく、昔からRPGゲームだけはよくやっていた事。
ミーレスが生きる現在の世界は、かつてよくやり込んでいたRPGゲームシリーズの世界に似ていた。
そして間違いなく、目の前のラスターが勇者だと、ミーレスは確信していた。
ラスターはミーレスと村で唯一同い年の幼馴染みだ。
ラスターは生まれて間もない頃、嵐の次の日に、一人で泣いているのを保護された。
出生が不明。
今の今まで、血の繋がりがない両親の元で、実の子同然のように育てられてきた。
太陽のように輝く金髪、柔和な顔立ち。
どこかあどけなさが残る顔は、昔からよく見てきたものだ。
昔、ぼんやりと村の長老会議を盗み聞きした事があった。
そこで聞いたのだ。
『ラスター…勇者の印を持つあの子は伝説の通り、いつか魔王を倒す勇者となるだろう。』と話している会話を。
その時は、何の事だかよくわからなかった。
ラスターには生まれながらに胸元に奇妙なアザを持つ。
まるで、ただのアザとは思えない、それこそ勇者の印と言わんばかりの、意味ありげな形のアザが。
前世を思い出す前のただのミーレスであれば、確信する事はなかった。
だが今になって、思い当たるフシが多すぎる。
あまりにも、ゲームあるある過ぎるのだ。
ゲームと似ているが、あくまで異なる世界だったが。
「ミーレス?おーい…。」
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