左手と右手

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 左利きというのが嫌だった。  左利き自体が嫌なわけではない。字を書くのも食事をするのも、やりにくい右に持たせようと矯正されるのが嫌だった。  幼稚園の頃、親に何度も右で持つように言われた。でも上手くできなくて、癇癪を起こして泣き喚く。  年長の時に引っ越してきて、同じクラスになった尚と仲良くなった。目がくりくりしていてほっぺたがピンク色でクラスで1番小さくて、女の子よりも可愛い子だった。守ってあげたい、と子供ながらに思った。  お家に誘って遊び、おやつを食べる時に左手でクッキーを掴んだ。  右手で掴もうね、と母親に言われる。小学校に上がるまでには右に矯正したかったらしく、その頃は左手が出ると何でも右手で、と言われていた。ベソをかきそうになった俺の右手を尚の左手が繋ぐ。 「忠志くんが左で食べるなら、食べてる時も手を繋げるね」  花がパッと咲いたような笑顔に、うん、と満面の笑みで頷いた。  久しぶりに俺が楽しそうに食べているのを見て、母親はそれ以降、右を使うことを強制しなくなった。
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