閃光

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 見上げた顔が怪訝そうに歪む。 「………………哲…太……?」 「そうだよ!やっぱ和志じゃんッ!!」 「───どうしてこんな所に……」 「そりゃこっちの台詞だよ!お前……藤之宮の生徒なの!?」  和志は自分より背の高い何年かぶりに会った幼馴染の顔を見つめた。 「───ってか戻ってきてんなら連絡くらいしろよ!突然いなくなって、心配したんだかんなッ!」  突然怒鳴りつけられ和志は目を丸くした。  間違いなく、幼い頃毎日の様に一緒に過ごした工藤哲太だと分かる。  哲太ともう一度向き合って話す事が出来たとしたら、きっとこうして怒られるだろうと想像していた通りだ。 「……ごめん…………俺………」  真っ直ぐに見つめる瞳から和志は思わず視線を逸らした。 赤く高揚した頬が、自分との再会を喜んでいることを教えたからだ。 まさか───またこんな風に会えるなんて思っていなかった。会いたいと思いながら会いに行こうとは思いもしてしなかった。 そして自分が会いに行かなければ、もう二度と会うことなど無いと思っていた。 「お前今どこにいんの!?───おばさんは!?」 あの頃よりずっと大きな手が和志の肩を掴んだ。 和志の知っている柔らかい子供の手では無い。逞しく力強い男の手だ。 「おーい!!哲太ッ!!」 しかし哲太の質問に和志が答えるより先に、同じく白い道着をきた男が向こうから走ってくるのが見えた。 「───お前何してんだよ!?試合始まんぞ!」 駆け寄った男は、和志の顔をチラッと見てすぐに哲太に視線を戻した。 「あ……中田…悪りぃ……自販機探してたら分かんなくなっちゃってさ……」  そう言っている間も掴まれた肩が熱い。 「お前……方向音痴なんだからちょっとは考えろよ!」 「うっせぇなぁ……だからこうして今聞いてたんじゃねぇか」 「またそうやって人様に迷惑掛けて……ごめんねぇ、キミ……コイツが迷惑掛けて」  不意にフラれた言葉に和志は顔を上げた。 「別に俺は……ッ」  哲太の肩に腕を回した如何にも『親友』と言う言葉が似合う、少し困ったような笑顔が瞳に映った。そしてそれを当たり前のようにさせている哲太の姿も……。 ───ああ……そっか…… 「いいんだよ、こいつはッ!幼馴染なんだから」 「はぁ⁉︎お前みたいなバカが、なんで藤之宮に幼馴染がいんだよ⁉︎」 「うるせぇ!オレだって知らねぇよ!───ってかバカは余計だ‼︎」  2人のやり取りを聞いてる内に、あんなに肩を熱くした熱が不意に感じられなくなった。 ───の友達………… 「なんだそれ?幼馴染なのに知らねぇって……幼馴染だと思ってんの哲太だけだろ……」  堪えきれず笑っている“友達”が 「そりゃもうただの“他人”だよ」 そう続けた。 ───他人……………… 「キミもハッキリ言った方がいいよ⁉︎こいつすぐ調子乗るから」  その言葉に和志は制服の裾を握りしめた。  しかし肩を掴んでいた哲太の手が不意に首に回され 「そんな訳ねぇだろッ!何年会ってなくても和志はオレの一番の親友なんだよ!な⁉︎」 昔と変わらない笑顔が向けられた。 「───え…………」  すぐ近くで向けられた笑顔に心臓が締め付けられたように、思わず息が詰まる。  哲太の言葉にも、この現状にも頭が追い付かない。 「ほらみろ!“え”って言われてんじゃん」 「おぉいぃッ‼︎和志ぃ‼︎その反応は酷くねぇ⁉︎」 「──えっ──ちがッ……そういう訳じゃ……」 「あ──おいッ!やべぇ……試合ッ!」  和志の言い訳を遮るように、突然我に返った中田が叫んだ。 「えー……もういいじゃん……もうオレ6回勝ったじゃん……せっかく和志とだって会えたしさぁ……」  そう不貞腐れたように言うと、和志の首に回された哲太の腕に力が加わり、無防備だった体を引き寄せた。 「マジで嬉しいんだけど……」  抵抗する間もなく抱き寄せられ、額が哲太の首筋に触れた。 「話したいこと山ほどあるしさぁ……」  甘いシャンプーの香りとそれに混ざった微かな汗の匂いに、和志の顔が一気に赤く染まった。  子供の頃、一緒に過ごした時と全てが違う。力強い手も、筋肉質な腕も、体から香る匂いすらも。それが余計和志の胸を昂らせる。 「お前ッ……ふざけんなよッ!あれはただの遊びだろッ!昼飯奢った分キッチリ働けッ!」  しかし中田は今にも角を生やしそうな形相で哲太の腕を掴むと、道場に向かって歩き出した。 「おいッ……あ…………ちょっ!和志───」  首に回された手が離れても未だ残す熱に、和志は俯いたまま動けずにいた。  “数年ぶりに会えた友人“への哲太の態度に、自分が抱えた想いの醜悪さをバラしてしまいそうな気がして、顔を上げる事が出来ない。 「───試合終わったら行くからッ!門のとこで待っててよッ!!」  引きずられながらも「ぜってぇだぞッ!!」そう叫ぶ哲太の声が、捨てられずにいる想いの蓋をこじ開けそうで、和志にその場から逃げることさえ出来なくさた。
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