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◆
朔さんが歌っている。
明滅するスポットライトを浴びて、汗をにじませて、それでもギターを鳴らし続けている。
一曲終わるごとにお客さんが増えてきて、わたしはいつの間にか、柵を挟んで彼の目の前に立っていた。
真剣な表情。
見上げても決して視線は合わない。
(あなたは、どうして歌うの?)
問いかけは届かない。
「最後の曲です。この曲を、×××に捧げます。……『水槽』」
わっ、とフロアが静かに湧いた。
すすり泣きしている人もいる。
わたしには分からない何かが、この曲には詰まっているのだ。
激しい雨はいつの間にか止んで、静かに、静かな雨が宇宙に降りはじめた。
わたしだけがひとりぼっちだ。
でも、それでもいいと、なんとなく思えた。
名残惜しそうな演奏がやがて小さくなっていき、反比例するように拍手が大きくなっていく。
わたしも必死に両手を叩いた。
泣きながら、両手を叩いた。
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