君が照らす宇宙

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   ◆  桜が降っている。  薄く澄み渡る青空の下、風よりも早く桜の花びらが流れていくようだった。 (あ、だめだ)  駅から大学までの道の途中、わたしは立ち止まって目を瞑った。  よくある目眩ってやつだ。しばらくじっとしていれば治るだろう。 「おはよう。課題やっ×△」 「○□××」  音が、通り過ぎて行く。 「▽◇○~」 「×○□~」  目眩と一緒に起きる症状。  病気という訳ではないものの、時々、人が喋っている言葉が理解できなくなる。喋っている単語そのものの意味がまったく分からなくなってしまう謎の現象は、会話中にも起きてしまう。  昔はそれでよくパニックになってしまった。  まるで、宇宙に放り出されて、ひとりぼっちになってしまったような感覚。  説明しようとしたってできるものではない。  今は、相手の表情を見て、適当に相槌を打ってその場を乗り切ることができる。 「♪~」 (!?)  突如耳に飛び込んできた歌声にびっくりして瞼を開けた。 (聞き取れる……!? まさか)  ふわっ、と。  わたしの横を通り過ぎていったのは、春に似つかわしくない黒ずくめの人間だった。 「あのっ」  反射的にわたしはその人へ呼びかけていた。しかしながら、立ち止まってはくれない。 「全身黒の、そこの人!」  実に雑な呼びかけだったとにわかに反省する。  それでも自分のことだと気づいたその人は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。 「……はい?」
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