君が照らす宇宙

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 男性か女性か、正直なところ判らなかった。  ただ恐ろしいくらい整った顔立ちをしている。まるで人形みたいだ、と思った。  黒ずくめの服は、いわゆるゴシックロリータというジャンルのものだろうか。  人形みたいな顔に、人形のような服がよく似合っている人間だ。  SNSで流行っているファストファッションとメイクをなるべく取り入れようとしているわたしからは、最も遠いところにいる人間だ。 「今の、何て歌ですか?」 「……は?」  きれいな眉が不快感で歪んだ。  わたしは若干怯みかけたけれど、めげずにたたみかける。 「突然すみません。人文学部心理学科一年の佐藤かすみと言います。今目を閉じていたらすごくきれいな声が聞こえてきて、その、すごくきれいな歌だと思ったので、興味本位で質問しました!」 「あんた、馬鹿なのか?」  通りすがりの人間に変な質問をするなんて、というのが後に続くのは、分かっている。  それでもわたしの胸は確かに弾んでいた。 (この人の声、すごく聞きやすい……!)  少し低めの落ち着いた、男性とも女性とも判別つかない声。  まるで、透明。  透き通った声、という表現がまさにぴったりだった。 「アヴェルスの『水槽』」 「……え?」 「アヴェルスはバンドの名前。曲名が、『水槽』。満足?」  そして、わたしの返事を待つこともなく、さっさと歩いて行ってしまった。  わたしは追いかける代わりに、スマートフォンを鞄から取り出す。  聞いたばかりの知らない名前を入力。 (インディーズバンドなんだ。しかも、もう解散してる)  どうやら女性三人で活動していて、数年前に解散しているということが分かった。  かろうじて『水槽』という曲は残っていた。  ワイヤレスのイヤホンを耳にはめて、曲を再生してみる。 (……違う)  確かに同じ歌だ。  だけど、わたしのなかにすとんと降りてはこない。 「あの人の声が、いいんだ……!」  それはまさに、青天の霹靂だった。
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