君が照らす宇宙

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   ◆  総合大学の教養棟というのは多種多様な人間が出入りする。  その分宇宙に放り出されることも多い。  とはいえ、高校までと違って、常に誰かと一緒にいる必要もないので、ひとりでいた方が気楽なわたしとしてはありがたかった。  たまにりさとランチをするときもあるけれど、食堂は混んでいてすぐ会話ができなくなってしまうので、基本的には広場のベンチで食べたいとお願いしている。  今日はひとりで広場のベンチ目がけて歩いていったところ、サークルの勧誘で賑わっていた。 (これはまずい)  賑やかすぎる。嫌な予感がする。わたしは宇宙へ飛ばされる前に踵を返して、広場を後にした。  ぐぅ、とお腹が鳴るが、ベンチにわたしのスペースはないのだ。  なるべくひとけのなさそうなところを探してアンテナを張る。 (……あれ?)  視界の先、黒ずくめが歩いていた。  しかも何か大きい荷物を背負っている。  人生初の尾行を決意したわたしは、物陰に隠れながら黒ずくめを追うことに決めた。  向かった先は、ぼろぼろのプレハブ、二階建てだった。  いわゆる部活棟というやつだろうか。ここの先住民たちは広場に押し寄せているので、しんとしている。  黒ずくめが吸い込まれていったのは、軽音部。  扉の脇で『部員募集中』と書かれた看板が横になっている。  やがて、ぽろんというギターの音が中から聞こえてきた。 「♪~」 (あの曲だ!)  アヴェルスというバンドの、『水槽』という曲だった。  優しげなギターの音色に合わせて、透明な声が言葉を紡ぐ。 「♪~」  そっと瞼を閉じた。  目眩は起きていないのに、自然とそうしていた。  宇宙に光の雨が降り注ぐ。  いつまでも聴いていたいと思える歌声だった。  ……とはいえ、静寂というのは突然破られるもので。 「あら? アナタ、入部希望者?」 「ぎゃー!」  いきなり声をかけられたわたしは、見事、尾行に失敗したのだった。
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