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総合大学の教養棟というのは多種多様な人間が出入りする。
その分宇宙に放り出されることも多い。
とはいえ、高校までと違って、常に誰かと一緒にいる必要もないので、ひとりでいた方が気楽なわたしとしてはありがたかった。
たまにりさとランチをするときもあるけれど、食堂は混んでいてすぐ会話ができなくなってしまうので、基本的には広場のベンチで食べたいとお願いしている。
今日はひとりで広場のベンチ目がけて歩いていったところ、サークルの勧誘で賑わっていた。
(これはまずい)
賑やかすぎる。嫌な予感がする。わたしは宇宙へ飛ばされる前に踵を返して、広場を後にした。
ぐぅ、とお腹が鳴るが、ベンチにわたしのスペースはないのだ。
なるべくひとけのなさそうなところを探してアンテナを張る。
(……あれ?)
視界の先、黒ずくめが歩いていた。
しかも何か大きい荷物を背負っている。
人生初の尾行を決意したわたしは、物陰に隠れながら黒ずくめを追うことに決めた。
向かった先は、ぼろぼろのプレハブ、二階建てだった。
いわゆる部活棟というやつだろうか。ここの先住民たちは広場に押し寄せているので、しんとしている。
黒ずくめが吸い込まれていったのは、軽音部。
扉の脇で『部員募集中』と書かれた看板が横になっている。
やがて、ぽろんというギターの音が中から聞こえてきた。
「♪~」
(あの曲だ!)
アヴェルスというバンドの、『水槽』という曲だった。
優しげなギターの音色に合わせて、透明な声が言葉を紡ぐ。
「♪~」
そっと瞼を閉じた。
目眩は起きていないのに、自然とそうしていた。
宇宙に光の雨が降り注ぐ。
いつまでも聴いていたいと思える歌声だった。
……とはいえ、静寂というのは突然破られるもので。
「あら? アナタ、入部希望者?」
「ぎゃー!」
いきなり声をかけられたわたしは、見事、尾行に失敗したのだった。
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