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桜の花はすっかり散ってしまった。
咲いていたことをきれいに忘れてしまったように、木には葉が生い茂っている。
ありがたいことに毛虫はいなさそうで、りさとわたしは広場のベンチに並んで座っていた。
「最近、調子よさそうじゃん」
りさの訊きたいことは分かっている。
朔さんについて、だ。
「あの変人とはどうなの?」
「どうもないけど、今度、ライブハウスへ行くことにしたよ」
「はぁ? 大丈夫なの!?」
「待って待って声が大きい」
わたしは手のひらをりさへと向ける。
「偏見だけど、ライブハウスって爆音でしょ? 心配なんだけど」
「トップバッターらしいし、三十分だけだし、耳栓も借りたからきっと平気」
「耳栓なんてしていいの?」
「いいらしいよ。わたしも初めて知ったんだけど」
りさが言いたいことも、分かる。
「……あたしは、あんたが元気だとほっとするけれど、無茶しようとしてると心配なの」
「無茶なんてしてないよ」
わたしは手元のミルクティーへ視線を落とした。
「ようやく、宇宙旅行も悪くないって思えるようになってきたんだ」
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