大きな変化の始まり

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大きな変化の始まり

課長の見事な股間が目に焼き付いて離れない。 あ、いや、下着姿だったけれどね、ローライズのボクサーパンツがはち切れんばかりに盛り上がっていた。 よくあんなところに収まっているなと感心するほどに大きな…… 。 黒のパンツ、えっちで、少しかっこよく思ってしまった。 白と黒を基調とした部屋に、パンツまで合わせるなんて…… 見事だ。 シャワーを浴びるため浴室へ。 自分が穿いている、股上が深めのグレイの、(僕だって)ボクサーパンツを見て、(ああ…… )と思う。 頭をぶんぶんと振り、違うことを考えようとしても、あの光景が蘇る。 課長の、あっぱれ股間。 それに比べて、貧相な僕の体。 ── もっと食べないと、だからそんなに体が細いんだろう 課長に言われた言葉を思い出した。 確かに細い、課長みたいに筋肉はついていない。 鏡を見て、ため息が漏れた。 そうだ、今日、初めて抱きしめられたんだ。 ドライヤーで髪を乾かしながら、ふと思い出す。 さっきまで体が密着していたけど、それは課長が酔っていたから僕が支えていただけ。抱きしめられたのは車の中、帰社が遅かった僕を心配してのシラフの時、僕はなんでもない振りをしたけれど。 なんでかな? ここに来てからの課長のあれこれを思い返し、そういうことなんじゃないかって、思わない方がおかしい。 もし課長に迫られたら、僕はどうする? ベッドに入ってからもそんなことを考え、課長の股間を思い出して全然眠れない。 僕は、男の人に興味なんかない、って、布団の中に潜り込んだ。 そうだ。 課長、明日の朝は大丈夫かな? かなり酔っ払っていたしな、たまには僕が早く起きて朝食の支度してみようかな、パン焼いたり、コーヒー入れたりするしかできないけど。 そうだ。 課長を起こしてあげよう。 さすがの課長だって、あれだけ酔っ払ってしまったら、いつものようには起きられないだろう。 そうだ、それがいい。 いつもすごくお世話になっているんだから、それくらいして当然だ。 …… 特別な意味はない。 眠れない僕はそんなことを考えていたから、余計に眠れなくなった。 起きれるかな? 僕自身が心配だ。 起きられるように、すぐに自分で止めてしまわないように、アラームをセットしたスマホをわざと遠くに置いた。 止めるために起き上がらなきゃいけないところに。 「…… ん…… 」 遠くでピロピロピロピロ音が鳴っている。 はっ! 起きなきゃっ! 課長を起こさなきゃっ! 飛び起き急いでスマホを手に取り、アラームを止めた。 七時を過ぎている。課長はいつも六時に起きているのを知っていた。軽い運動をしてから朝食の支度をしているんだ、今朝はそれらは吹っ飛ばしたとしても、シャワーは浴びなきゃだろう、昨夜はあのまま寝てしまったんだから。 ドタバタとまずリビングへ。 「おぅ、おはよう」 カウンターキッチンから、課長の爽やかな笑顔で迎えられる。 すでにシャワーも浴び終えているようで、爽やかの二乗。 「今朝の寝癖は一段とすごいなっ!直し甲斐があるぞっ」 嬉しそうに澄んだ声、爽やかの三乗。 「課長、具合は大丈夫なんですか? 」 昨夜はあんなに酔っ払っていた、二日酔いとかしてないのかな? 「ああ、昨夜はかなりの失態を見せてしまったな、はっはっはっ!」 と声高々に笑いながら朝食を作っている。 やっぱり鉄人。 「早起きだな、どうした? 」 「今朝は課長、起きられないんじゃないかとか思って…… 起こそうかな、なんて思ったりして…… 」 早く起きた理由を正直に話すと、バッと顔を上げてキラキラした目で僕を見る。 「なんだって!? 本当かっ!? よし、俺は今からもう一度寝るから渚冬、起こしてくれっ!」 急いで手を洗い、慌ただしくタオルで拭きながらリビングから出て行こうとする課長。 「そんな! もう起きてるんだからいいじゃないですかっ」 課長の腕を取ると、ブンッと振り払う。 「何言ってるんだ、渚冬に起こしてもらいたいっ!」 リビングのドア付近で、すったもんだ。 「じゃ、じゃあっ!明日、明日の朝、僕、課長を起こしますっ!」 「ほっ!本当かっ!? 」 そうでも言わないと、この場が収まらない気がした。 でも、すごく嬉しそうな顔の課長に、とくんとなる。 でも、明日の朝起こすのか…… 課長は六時に起きてるから、五時五十分に起きればいいかな…… うーん、厳しいな、なんでそんなこと言っちゃったかな。 言ったそばから後悔している僕。 「というか渚冬、なんで課長呼びに戻っているんだ? 」 まだリビングのドア付近。 課長が小首を傾げる。 「え? だって、ここは外じゃないですし…… 」 「会社以外では課長って呼ばなくていいだろう、もう」 もう? そんなこと…… 。 僕を見つめる課長の視線が熱い。 でも、吟哉さんって、呼びたい気持ちが、僕の中で見え隠れしていて戸惑った。
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