もう謎じゃない

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それからも、何度も僕たちは繋がり、最後はぐったりとしてしまっている僕に、 「寝ていていい、もう一回だけいいか? 大丈夫か? 」 何度達したのか分からないのに、全く萎えない吟哉さんの鉄の肉棒が空恐ろしくも思えたけれど、それでも嬉しくて、朦朧としながらコクっと頷いた。 「あんっ、あんっ、あぁっ…… 」 朦朧としているのに、身体は正直、快感がまた襲ってくる。 こんな悦楽…… 初めて味わう。 「お腹、空いただろう? 」 僕の髪や頬を撫でながら、ちゅ、ちゅっとキスを落としながら吟哉さんが訊く。 夢中だった。こんなに幸せで、そして気持ちがよくて夢中だった。 「あ、はい…… 」 訊かれた途端に空腹を認識してしまい、ぐーっと大きくお腹が音を立てた。 「なにか作ろう」 ふふっと笑って、なおもキスを続ける。 「あ、だめ、です。それじゃあ、吟哉さんがゆっくりできない」 「ゆっくりするより、俺は渚冬のために動きたい」 「ど、どうして、ですか? どうして、そんな、僕のために…… 」 どうして僕なんかのためにそんなにしてくれるのか、吟哉さんへの気持ちが募るほど、それは疑問でしかない。 ── 俺は愛している その言葉が蘇って、さらに疑問が深まる。 どうして、僕なんか。 とても嬉しい気持ちと同じ分だけ、不安になる。 「さっき、俺を好きだと言ってくれたな」 「…… はい」 「俺のどこが好きなんだ? 」 「え? あの…… 」 どこ? 優しいところ? 厳しいところ? 誰が見てもかっこいいところ? 「どこって訊かれても、好きなものは好きなんです」 「だろう? 俺もだ」 そう言われて言葉に詰まった。 「人を好きになるのに、理由は要るか? 」 理由など要るはずがないだろう、という微笑み、確かに、どこかと訊かれてもピンポイントで答えられない。 むしろ、全部好きだ。 でも、僕が吟哉さんを好きなのは誰が聞いたって納得するはず、吟哉さんが僕を…… は、皆、首を傾げてしまうだろう。 こんなに大事にされて、愛してくれているのに不安な気持ちが消えなくて、少し気落ちした顔になってしまった。 「三月に、四国支社に用があって行ったんだ」 三月といえば、まだ僕が四国支社の香川営業所にいた頃。 「渚冬を見かけた」 「僕を? 」 「ああ、可愛い顔で笑って誰かと話してたなー」 僕のすぐ隣りにごろんと仰向けに寝転がり、思い返すように天井を見ながら、嬉しそうな顔で話す吟哉さん。 「あれは誰です? って、営業所の所長に訊いて名前を知った。そして東京への異動願いを出していることも聞いたんだ」 まさか、吟哉さんが僕を? 「本社に戻って、すぐに渚冬の異動を指示した。公私混同も甚だしいが仕方ない、渚冬は俺の好みのどストライクだったからな」 僕が? ずいぶんと珍しいユニークなストライクゾーンだと、思わずにはいられない。 「配属はもちろん、俺のいる本社の第二営業部だ。渚冬は素直だから、すぐに皆んなに可愛がられて、俺はもう、やきもきして大変だったんだからな」 少し睨み気味で、はっはっはっと笑いながら言う。 「そ、そんな…… 」 そんなふうに思っていたなんて微塵にも思わなかったから、あの頃は本当に吟哉さんが恐かった。 あの頃、と言ってもまだ二ヶ月も前の話しじゃない、短い間にこんな変化、僕の人生が大きく変わった。 ── 説明してみろ ── 説明する気はあるのか? ── ちょっと来い ショップでライバル会社の棚替えを手伝い、帰社が遅くなった説明をしろと言われたのと、寝癖をなおすためにトイレに呼ばれて、そしてありえないほどに優しい吟哉さんがひどく恐ろしかったな、と今となっては僕も懐かしく思えた。 って、少し前の話しなんだけどね。 「ん…… 」 いきなり吟哉さんがまた、口づけてくる。 「もう、俺だけのものだぞ渚冬は」 「最初から誰のものでもなかったです、僕」 大層に言われて逆に恥ずかしい。 「シャワー、浴びるか」 吟哉さんがベッドから颯爽と出ると、目の前に現れた後ろ体がすごい。 筋肉に覆われて引き締まった逆三角形の背中、お風呂上がりはよくバスタオルを腰に巻いただけでリビングをうろつくから、見慣れているけど今はなんか違う。 お尻つきだからか。 そしてそのお尻なんかキュッとしまって小さい、惚れ惚れとして思わず両手で口を覆った。 「ん? どうした? 」 「い、いえ…… 」 やだ。 今、完全に見惚れて、ぽぉーっとした顔になってたと思う。 「あ、そうか!お腹空いてたな、渚冬っ!じゃあ今、チャチャッと作ってしまうから、渚冬はシャワーを浴びてきなさい」 「いえ、大丈夫です。吟哉さん、先に浴びてください」 「渚冬が浴びなさい」 「いえ、吟哉さん…… 」 これは…… 。 「じゃあ、一緒にシャワー浴びるか!? 」 やっぱり。 満面の笑みで吟哉さんが僕に訊く。 「で、では、先に失礼します」 以前のように、一緒に入るなんてとんでもない、って思って僕が先にと言ったわけではない。 吟哉さんは以前のお茶目に残念そうな顔とは違って、ひどく残念そうにしょぼくれた顔。 恥ずかしいんだ、一緒になんて。 でも、あまりにしょんぼりしているから、 「きょ、今日は…… その、恥ずかしいので…… 」 嫌なわけではないと伝えたくて、はにかんでそう言った。 「恥ずかしいこと、あんなにいっぱいしたのに」 それでもまだ、しょぼくれてる吟哉さん。 全裸でしょぼくられても、僕はドキドキしてしまうだけだよ。
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