もう謎じゃない

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「なにが…… 食べたい? 」 項垂れて、元気のない声で吟哉さんが訊く。 一緒にシャワーを浴びないことが、相当残念みたいな吟哉さんに胸が痛んだ。 「えっと…… あの…… あっ、じゃあ、じゃあ、一緒にシャワー浴びましょう!その代わり、デリバリーをお願いしましょう、ね? 」 そうだ、それがいい、そうしたら吟哉さんはゆっくりできる。一緒に浴びるのは恥ずかしいけど、そんなに悄気てしまうのなら、僕の恥ずかしさなんて二の次だと思った。 でも、デリバリーをとる、というのは気に入らないかも知れない、ちらっと吟哉さんに視線を流した。 目が燦然と輝いて顔を上げている。 「分かった!よし!じゃあ二人で一緒にシャワーだ!いや、お風呂沸かすか? きっとすぐに沸くぞ、そうだ、そうしよう!」 ウキウキとスキップしながら部屋を出て行き、バスルームへ向かう吟哉さん。 こんなに分かりやすい人っているかな? 思わずふふっと笑みがこぼれた。 吟哉さんのように僕も全裸で歩くのは気が引けて、というか、あんな素晴らしい裸体を目の前に貧相な僕の体は気後れしかない。 床に散らばっている吟哉さんと僕の下着や服を拾い、それで体を隠しながら僕もバスルームへ向かう。 「お、ありがとう渚冬」 「あ、僕が分けます」 普段の生活に戻ったような会話に、裸でいることがますます恥ずかしくなる。 吟哉さんはといえば、全裸のまま堂々とあれやこれやと動き回っている。 下着と服と、乾燥をかけるもの、かけないものが僕にだって分かるようになった。 …… まずい、体を隠すものが段々となくなっていく。 前屈みになって分けていると、吟哉さんにすりすりとお尻を撫でられ「ひゃっ!」と背筋が伸びた。 「な、なにするんですか!」 あまりに驚いてしまって怒ったように声を出す僕。 「可愛いお尻」 「や、やめてください」 「ふふっ、風呂が沸いた、さぁ入ろう!」 僕から洗濯物をとりあげ、あっという間にカゴに分け入れると、にっこりと笑顔を見せて手をとられバスルームへ。 僕の頼りない裸体があらわになって恥ずかしかったけれど、こういう時は堂々としていた方が変じゃない。 でも顔はきっと、真っ赤になっているはず。 「洗ってやろう」 「あ、いえ…… だ、大丈夫です」 「遠慮するなっ!」 「え、遠慮してません…… 」 吟哉さんの大きな声がバスルームに反響する。 元々バスチェアはなくて、ずっと座って洗っていた僕は最初変な感じがしたけれどそれだって慣れた。 立ったまま、吟哉さんが僕の背中をゴシゴシと洗ってくれる。 「今度風呂の椅子を買ってこような」 「大丈夫ですよ、僕も立ったまま洗ってますから」 「風呂でゆっくりと洗いっことかしたいじゃん」 楽しそうな、嬉しそうな声。 こんなに喜んでくれて、一緒に入ってよかったと思った。 「前も洗ってやろう」 「あ、前は…… いいです」 それはさすがに恥ずかしい、今さらだけど。 「あっ、僕が吟哉さんの背中を流しますっ」 そう言って振り向くと、またしてもそそり勃っている吟哉さんのイチモツ。 ハッと息を呑んで凝視してしまった。 これが、ここに…… ? 無意識に手がそっと、まだ違和感の残る尻の方へ。 人間の体ってすごいなって、感動みたいなものが胸に湧き上がる。 「欲しいか? 」 「え? あ、ちが…… 」 欲しいわけではないと言ったら、またしょんぼりするかな? と、だいぶ吟哉さんの気持ちの行く先が読めるようになってきた僕。 「今は、吟哉さんの背中が流したいです」 うつむき加減で、わざと恥ずかしそうに言ってみると、 「そ、そうか!? じゃあ、頼むかな!」 ウキウキと僕に背中を見せてくれた。 こんなにかっこいいのに、本当に可愛いな、吟哉さん。 でも背の高い吟哉さんの背中を流すのには少し難儀してしまい、それに気づいた吟哉さんが湯の中に足を入れ、バスタブの縁に座ってくれる。 いつだって、なににだって、空気を読んだり状況を把握したり、どうすべきかが分かってすごい人。 でも、僕のことになると尋常でいられなくなるのも知っている。すごく、身に余る幸せだと思った。 それにしても大きく逞しい背中。 僕の背中なんて情けないだろうな、とか思いながらその背中をゴシゴシと洗っていると、小さく肩がふるえ始めた。 「…… 吟哉、さん? 」 「ん? あ、ごめん、すごい、嬉しくて…… 」 「? 」 「渚冬にこうして背中を流してもらえる日が来るなんて、嬉しくて、嬉しくて…… 」 …… 泣いている。 吟哉さんが嬉しくて泣いている。 そんなに、そんなに喜んでくれたのかと思うと、僕の胸もじんとした。 でも、僕が小さい頃、一緒にお風呂に入ったおじいちゃんの背中を流してあげた時も、こんなんだったな、なんて思い出したのは内緒の話。
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