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 クリスマスのデートを終えて、真宙は家に帰ってきた。  しかし部屋に戻るなり電気もつけずにベッドに横になる。 「――あたしはお姉ちゃんではなく妹の秋那です――」 (……違う) 「――あたしは秋那です――」 (……違う) 「――お姉ちゃんはもういないんです――」 「違うよ……っ」  頭の中に彼女の言葉が木霊していた。  そしてその棘のような言葉を一つ一つ否定していく。 「……桜良は、いなくなってなんかないんだ」  そう、桜良はいなくなってなんてない。  桜良はずっといた。自分の側にいてくれた。学校でも、登下校中でも、休みの日でも家の中でも、桜良はずっと側にいた。  確かにここ三か月ほどは声を聞くことも、触れることもできなかったかもしれない。だが昨日、今まで通りの桜良が帰ってきた。  なにがあったのかはわからない。でも元に戻ってくれたんだ。しかもクリスマスイヴという特別な日に。まさに聖なる日の奇跡と言えるだろう。 「……ねぇ、そうだよね、桜良。桜良はずっと、ここにいる。いなくなったことなんて、ないよね……」  暗闇の中で手を伸ばす。そこには、真宙の恋人である桜良の姿がある。  桜良は微笑んでいる。ただ、真宙の顔を見て微笑んでいる。 「どうしたの? さっきまでみたいに話をしようよ。なんでもいい、どんなくだらないことでもいいからさ」  ベッドから起き上がってさらに手を伸ばす。  しかし真宙の手は桜良に触れることは出来ないし、真宙の言葉にその桜良がなにかを返すこともない。 「…………ああ、そうか、そうだよね。ここは僕の家だもんね。緊張するよね、ごめん。でもいいんだよ、自分の家だと思ってラクにしてくれて。いつも通りの桜良と話が出来たほうが僕も嬉しいんだ」  ベッドに腰かけて語りかける。  だが桜良に変化はない。微笑を浮かべたまま、ただただ真宙のほうを見ている。 「…………桜良……っ」 「――粕谷先輩――」  声がする。  それは桜良の声。桜良の声のはずだ。 「――あたしはお姉ちゃんではなく妹の秋那です――」  でもその声は、自分を桜良ではないと言う。 (……違う) 「――あたしは秋那です――」  自分は桜良ではなく、妹だと言う。 (……違う) 「――お姉ちゃんはもういないんです――」  そしてあろうことか、桜良はもういないと言う。 「違うよ……っ!」  それは桜良の言葉のはずだ。桜良の声のはずだ。口にしていたのは桜良のはずだ。  だがその桜良であるはずの彼女の言葉が真宙の身を切り刻む。そしてまるで刃物を首元に突き付けられているかのような錯覚の中、それらを振り払うようにして真宙は叫ぶ。  そう、そうだ。  そんなはずはない。  そんなはずはない。  そんなはずはない。 「……――桜良は、いなくなってなんて……いないんだ……っ」
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