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「改めまして、あたしは中間秋那。中間桜良の一つ下の妹です」  そう自己紹介した秋那を真宙たちが連れ込んだのは、学校から一番近くにあるファミレスの一角だった。クリスマスイヴということもあったが、客入りが多くなりはじめる前に入店することが出来たため、角のボックス席に四人は陣取った。 「妹、さん……」  秋那の正面に座る和花と、その隣に座る御調が驚きを隠しきれない表情で彼女の顔を見ていた。  それもそのはずで、似ている……いや、似すぎているのだ。  彼女、中間秋那は中間桜良に。  妹ということだが、顔つきからスタイル、髪型まで桜良にそっくりだ。それはただの姉妹なんかではなく、御調と和花が秋那と桜良は双子なのではないかと感じたほどだ。 「なにか?」 「……あ、いや、悪い。あまりにも、その……中間に……あ、お姉さんに似ていたから」 「はい、よく言われます。ま、一つ違いとはいえちゃんと血の繋がった姉妹ですので。顔つきが似ていてもおかしくないですよ。でも、そんなに驚くことですか?」 「あ、ごめんね。それだけ似ていたから……」 「……先輩たちはお姉ちゃんとお別れするときに来てくれていたので、あたしの顔も知っているかと思ってました」 「あのときは……俺らも、ちょっと周りを気にしている余裕がなかったというか」 「うん、ちょっと現実を受け入れるのが辛くて……」 「……そうですね。すみません、意地悪な言い方をしました。……その節は、お姉ちゃんに会いに来てくれてありがとうございました」  秋那はテーブルに額がつくのではないかというギリギリまで頭を下げながら言う。 「お姉ちゃんからお話はよく聞いていました。えっと、古賀先輩と飯塚先輩、ですよね」 「ああ、よろしく」 「古賀和花です、よろしくね」 「……そして」  と、秋那の視線が隣に座る真宙へと向いた。  その視線は桜良が真宙へは決して向けなかった類の視線だったが、それでも桜良に瓜二つな秋那に見つめられることが嬉しかったのか、視線が交錯すると真宙は満面の笑みで見返した。  そして秋那はその真宙の視線から逸らすことなく、逆にスッと目を細めて、 「……粕谷先輩」 「いやだな、桜良。先輩なんて僕らは同い年じゃない。それにどうして急に苗字で呼ぶんだよ」 「……」 「粕谷くん……」 「おい、真宙。お前……っ」  真宙の言葉に和花が俯き、御調の口調が僅かに荒ぶる。しかしその先を言おうとした御調の言葉を、秋那が視線だけで遮った。 「なに言ってるんですか、粕谷先輩。さっきも言いましたが、あたしの名前は秋那です。あなたの恋人であった中間桜良じゃありません。妹です、あたしは」 「うん、妹さんがいるのは知ってるよ。あ、でもそういえばまだ顔を見たことがないな。そうだ、今度紹介してよ。桜良の妹なら会ってみたいな、きっと仲良くなれるよ」 「そんなに顔が見たいですか? なら、今あなたの目の前にいる女の子の顔をよく見てください。とても可愛らしい美少女の顔があるでしょう? これがご所望のお姉ちゃんの妹の顔です」 「妹さんも桜良によく似てるってこと? なら妹さんもきっと美人だね」 「そうですね、あたしがお姉ちゃん似の美人なのは認めます。でも、先輩。何度も言いますがあたしは中間桜良じゃありません。お姉ちゃんは、もういないんです」  秋那は真っ直ぐに真宙の視線を見つめて話す。決して逸らさず、決して臆さず、決して揺らぐことなく、真宙へと言葉を投げかける。  そして真宙は、その秋那の視線を真正面から受け止めた。  ただし、その瞳が目の前の少女を中間秋那だと認識しているとは言い難い。そして決して、その言葉を認めない。 「……桜良らしくない冗談だ」 「ええ、嘘でも冗談でも、ましてやあたしはお姉ちゃんじゃありませんから」  いつしかファミレスの客席は満席になっていた。家族連れや若いカップルはもちろん、同性で集まりそれぞれがわいわいとクリスマスを満喫している。そんな、この場の誰もが明るく楽しい気分でいる中、真宙たちのテーブルだけは外の肌を刺すような空気が流れ込んできているかのような錯覚すら感じられた。 「…………わかりました、先輩。ならこれから、あたしと出かけましょう」 「デート? 僕としては当然お願いしたいよ。どこか行きたいところある?」 「ちょ、ちょっと待て、えっと……妹ちゃん」 「秋那でいいですよ、先輩方」 「なら秋那。今の真宙は……」 「わかってます。大丈夫です」 「な、ならせめて私たちも一緒に」 「ありがとうございます、先輩。でも、二人で行かせてください。お願いします」
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