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「トゲくらい我慢してよっ。割れてるじゃないっ」
「由恵、大きな声をださない」
落ち着いた彼の口調が、大切な物を壊された私を煽るようだ。
「人の大切な物を壊しておいて、よく平然としていられるわね」
「すぐに、ごめんって言ったよな?もう一度言うよ、ごめん」
すぐにごめんって言ったからって何事も問題にならないとは限らない。壊れた宝物は元には戻らないのよ。
「……大切にしてたのに…大事なのに…」
私の声を聞きながら、下へ手を伸ばした夫に
「触らないで…もう割れてるの…私じゃないと…」
両方の手のひらを向けて拒否を示す。
「ハァ…あのさ、由恵。形ある物はいつかは壊れるんだよ」
今の私には、その言い方も気に食わない。
「私じゃないと、っていうのも意味が分からな…」
「えっ?」
「いや…俺は分かるよ…由恵が何度も熱く語ったから分かるけど、普通、一般的には分からないことだよ。なんか……あまりそんなのに執着すると気味悪いって思われるかも」
壊れた物と同じダメージを受けた私には、落とした夫の本音が溢れてる時間だと感じた。
「落とした物を“落ちた”と言い…ごめんで即、解決すると言い…形ある物は壊れて当たり前と言う。私が愛情を持っている物に対して、あまりにも冷たい言葉の数々ね」
残念だわ、と言うのが正解か、幻滅したわ、と言うのがぴったりか。
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