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「そこまで言わなくても、また買えばいいよ」
カッチーン…ときて、ブチッ…と何かが切れた。
「最低…何も分かってくれてないのね。分かってくれてなかったんだ…」
「正直理解するのは難しい部分だよ。何の反応も、温度も無い物に掛ける愛情って」
「じゃあ、あなたは毎日、毎日、私が撫でたり、話し掛けたり、磨いたり…癒されて…っていうのを笑ってたの?」
「笑ってはいないよ。ちょっと変わった、風変わりな趣味だと理解している。旅行に連れて行くっていうのは…重い荷物が増えると思ってたけど」
ショックだ…非常にショックで泣いてしまいそうだ。
「家族なんだから連れて行くのは当然でしょ?」
「はいはい、分かったって。だから連れて行ったよな?それでいいだろ?」
「………まさか…わざと落としたの?」
「そんなワケないだろ?いくら俺でも怒るぞ」
私だって怒るし悲しいのよ。
私はしゃがみ込むと、大切なペットを抱きしめた。
「ほら、捨てなくていいから。そのまま持って行くならここに入れて。もう業者が来る時間だ」
ああ…無理だ。限界…
「あなただけ引っ越して」
「はぁ?どういうこと?何言ってんだ?」
「魂の宿る物をそんな箱に入れるなんて無理。そんな感性の人とは暮らせない。亀裂が入っていようが…私はこのまま大切にするわ」
「……そんなものを抱きしめて…俺よりそれって…」
ちょうど鳴ったインターホンに応えた夫は
「急ですが、荷物は半分ほどでお願いします」
と伝えてバタバタと部屋を出た。ドアの向こうの数人の気配を感じながら、私は涙が止まらなくなる。
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