うた

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中庭同・・ぜ・・ 「うわっ!」 ぬめっと足元のぬかるみに足を取られると 引きづられるように窪地へと滑り落ちて行った。 森の腐葉土のおかげなのか 思ったほどの衝撃はなかった。 が 立ちあがろうとするや否や激痛が走った。 足首を捻ったらしい。 これでは登れない・・ 途方に暮れて 恐る恐る辺りを見渡すと・・ 「ひっ!!」 声にならない声が吐き出ると同時に キュッと身が縮む。 暗闇の中、音も立てず 膝を抱えた少年がじっと見ている。 思わず立ち上がりかけると 痛めた足首が体重に反応した。 「いっ!!」 でんっと、尻餅をつく。 少年の大きな目が その一挙一動をじっと見ている。 「い、生きてるのか・・? 人間・・なのか?」 「生きてるし、人間だ」 少年はぶっきらぼうに答える。 「オレの考えが読めるのか?!」 「読めないし、声に出てる」 どうやら恐怖で 思った事が声に出ていたらしい。 ぴくりとも笑わない少年の前で 物理的に動けない凛糸(リート)は 恐怖と静寂に支配されるままに おとなしく座っている事しかできなかった。 「ち、治療薬の、、事、、知ってる?」 「知ってる」 「オレさ、、見た事ないんだけど、、ある?」 「ある」 「え!? ほんと?」 「うん」 「え!? まじ??」 「まじ」 凛糸(リート)は思わず体重を乗せた足首に悶絶した。 「ところで・・なんでここにいるの?」 「落ちた」 「いつ?」 「さっき」 「オレは、リート。 君は?」 「ノレ」 「家は?」 「・・・」 ノレは答えるのを止めてしまった。 「足さえ痛くなければこんな穴、すぐ出られるのに」 「治したいか?」 「足? もちろんだよ」 すると 〜♪ 凛糸(リート)は一瞬で凍りついた。 ほんの頭出しの ハミングにも関わらず 安定した音程と 美しい声音 余韻のビブラート どれをとっても 上等で美しい。 凛糸(リート)はこの街で トップクラスのソプラノ歌手だ。 まだ、声変わりしていないボーイソプラノは いつ終わりを迎えるやもしれぬ儚さも手伝って その人気は飛ぶ鳥を落とす勢いである。 だからこそ、誇れる自分でありたいと 日々の努力を怠る事のない凛糸(リート)の姿は仲間の刺激となり 合唱団のハーモニーの完成度と美しさは止まるところを知らなかった。 その凛糸(リート)の耳が ノレのハミングの美しさに凍りついたのだ。 〜♪ ハミングはノレの実力のほんのひとかけら程度なのは明らかだった。 にも関わらず この狭い暗闇に光を与え 波動は柔らかく空気の感触を変えた。 そして、不思議な事に 足の痛みが水に溶けるように滲んで消えてゆく。 ふっと幕が降りたように暗闇と静寂が ノレのハミングの終わりを告げた。 ノレがじっと凛糸(リート)を見る。 「どうだ?」 「う、上手いよ!  サイコーだよっ!!」 「え?」 狭い暗闇に凛糸(リート)の拍手が鳴り響く。 「いや、、足、、」 「足? あ! 痛くないよ!」 凛糸の足の腫れはどこへやら 何事もなかったように痛くも痒くもない。 「は、、初めて、、だよ」 「?」 「褒められた」 「え? こんなにも美しいのに?」 ノレの口角が素直に上がる。 恥じらいはノレの心の重い扉を少しづつ開いていった。 「凛糸(リート)の探してたR009は僕だよ  僕の声には治癒力がる。  でもこの能力がどこから来るのか  いつ終わるのか・・誰にもわからない・・」 よく見ると ノレの喉元や手足には 何かの跡が・・痛々しいままに 透けるような白い肌を変色させている。 「一緒に学校に行こう」
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