1人が本棚に入れています
本棚に追加
しれっと
寄宿舎に戻った凛糸は
ノレを連れて校長室に向かった。
校長室には生徒だけの秘密の出入り口がある。
大人はどんな理由でも許可なく校長室に入る事はできなかったが
生徒は別だった。
どんな生徒でも
校長先生がいる時に限っては出入りが自由だった。
だからなのか
校長先生のベッドはこの街一番の大きなベッドで
どんな嵐の夜でもみんなで寝る事ができた。
そんな出入り口からノレを連れて中に入ると
すでに校長先生は数人の生徒に囲まれている。
ノレはみんなに自分の事を知られる事を恐れたが
凛糸は違った。
仲間を呼んで
みんなの前でさっきの出来事を説明したのだ。
ひとしきり話を聞いた校長先生が
「さてさて・・どうしたものか・・」
と、思考をあぐねていると
「校長先生! この子が火傷しちゃった!」
低学年の生徒達が飛び込んできた。
「ぼく、お湯をこぼしちゃって・・
どんどん赤くなってきて・・」
すると、ノレがスッとその子の前に立ち
〜♪
柔らかく、優しい声音でハミングを始めた。
そのハミングのあまりの美しさに辺りは静まり返り
止まった時の中でノレのハミングだけが
空間を豊かに膨らませているかのようだった。
消えゆく火傷の跡を見届けたノレは
もう大丈夫とニコッと笑った。
その瞬間
低学年の生徒達が四方八方からノレに抱きついた。
それに反応したように凛糸たちもまた
低学年の生徒達ごとノレを抱きしめた。
しばらく生徒達の笑顔を見守っていた校長先生がふわっと片手を挙げた。
「みんな、よく聞いて。
ノレが怖い思いをしないように
ノレの力は私たちの秘密にしよう」
「なんで? こんなに素敵な力なのに??」
「こんな素敵な力だから、欲しがる人がいる。
この力をどう使うかは、ノレが決める事なのにね。」
その日からノレはこの学校の生徒として生活を始めた。
ただ、歌うことだけは決してしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!