うた

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有名な声楽学校に 歌わない生徒がいる・・と 少しづつ噂が ひたひたと漏れ始めたある日 校内のホールで練習の準備をしている時のことだった。 校長先生がピアノの調律をしていると ドヤドヤドヤ 懸賞金目当ての男達が乱入してきた。 「歌わないヤツはどいつだ!」 「そいつをよこせ!」 舞台袖でこの様子に気付いた凛糸(リート)たちは ノレを囲んでじっとみんなで肩を寄せ合った。 「大丈夫だよ、ノレ」 「僕たちがついてるよ」 「おい!おいぼれっ!  歌わないガキが金づるだろ!」 「1人でせしめてないで出しやがれ!」 調律の手を休める事なく校長先生は言った。 「さてさて、なんの事だかわかりません。」 「さっさと、ガキを出しやがれっ!」 ジャコっとライフルを鳴らすと 校長先生に銃口を向けた。 「こんなところで、そんなもの・・を」 ズガーーーンっ ホールにライフルの焼けた匂いと 恐ろしい残響が天に昇って吸われていった。 「先生っ!!」 生徒達の悲鳴と共に 大人や警備員が一斉にホールに傾れ込んだ。 と、ノレが校長先生の元へ駆け寄った。 「先生!」 「・・ノレ・・」 先生は目を細めて優しく微笑んだ。 が、腹からは見た事もないほどの血が 白いシャツをどす黒く染めてゆく。 消え入りそうな校長先生の息が ノレの胸を強く締め付けたその時 誰も聞いた事もない 高音域の美しい響きがホールを支配した。 その美しい響きは 悲しみと怒りの波紋を広げ 人間のそれとは思えないフォルテッシシモで 強く伸びやかに響き渡ってゆく。 その場にいる全てのものが 圧巻の声量に凍りついた。 と同時に校長先生の血は止まり 目には生命の光が戻ってゆく。 異変にいち早く気付いた凛糸(リート)は ノレの傍に飛び出し ノレの響きに呼応するように 美しい旋律を力の限り歌い始めた。 ノレの響きにのまれる訳にはいかない。 ノレの力が見つかる訳にはいかない。 凛糸(リート)は自分の力の限り 最も美しく 最も強く ノレの響きに豊かな旋律を重ねる。 それに気付いた仲間達は2人の背後に並ぶと ふっと視線を合わせた。 出だしの一音も狂わす事なく 見事に一糸乱れぬハーモニーで 美しい旋律を重厚なものに押し上げてゆく。 素晴らしい響きは この場にいる全てのものの魂を掴み離さなかった。 一曲歌い終わると 凛糸がリーダーの風格で堂々と言い切った。 「この合唱団に、歌えないものなどいません。」 水を打ったような静けさの中 ぱらぱらと まだらな拍手の音を皮切りに 押し寄せる波のように大きな拍手が響き渡った。 こうしてこの日から ノレはみんなと歌うようになった。 誰かの痛みが癒えるのならいつ歌ったっていいし オレたちと歌えば、誰が奇跡を起こしたのかなんてわかんないさ! 今日も森を背にした学校の合唱団は 美しいハーモニーで街中の人を虜にするのだった。
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