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プロローグ:はじまりの心構え
――――それは、突然のことだった。
「あれ、セミじゃん。生き……てんのよね?」
道路の真ん中でひっくり返っている夏の風物詩。
左右をキョロキョロしてみるが、車が来る様子はない……けれど。
“このままだったら轢かれるよねぇ”
一応先に言っておくが、別に私は昆虫が好きとかでは一切ない。
むしろどちらかと言えば苦手な方。
けど、ここは私こと上植六花の通う専門学校の通学路で。
「明日通って潰れてるの見るの嫌だなぁ……」
はぁ、と思わずため息を吐く。
好きではないが、見たくないものは見たくないのだ。
「仕方ない……」
もう一度左右を見て、車が来ていないことを確認しひょいと道路に飛び出す。
躊躇いながら、でもここまで来たんだから、と意を決してセミに手を伸ばし――――…………
ジジジジジッ
「ぎょえぇぇぇえっ」
掴もうと手を伸ばした瞬間にひっくり返ったまま大きな鳴き声を響かせ地面を暴れるその怪物。
どうしてセミというやつは死んでるのかと思うほど静かな状態からこんなにも大きな円を描きながら地面を動けるのだろうか。
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