同棲するという事

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「よし。落ち着いてきたところで、改めて言うよ」 「うん」  平常心を取り戻した彼に、私は微笑みかける。 「咲。俺と…………」  春樹くんは、緊張しているのか、再び大きく息を吸って吐く。 「…………俺と結婚を前提とした同棲をしないか?」  彼は照れていたのか、早口で捲し立てるように言った後、呼吸を荒げながら私を見つめた。  まさか、結婚まで考えてくれていたなんて、考えすらしなかった事だ。  春樹くんを見つめる私の視界はグニャリと歪み、熱を帯びた雫がポツリとフローリングに落ちた。 「ねぇ……私で…………いいの? 仕事は不規則だし、地方公演で家を空ける事も多いんだよ?」 「すれ違いが多くなってきたからこそ、結婚を前提とした同棲をしないかって言ってるんだろ?」  彼の大きな手が私の頭を包み、穏やかに笑いながらクシュクシュに撫で回した。 「互いにできる事を模索しながらやっていけば良いって、俺は思ってる。何よりも、俺は咲の夢を、これから先も見続けていきたい」  ああ、この人は何でこんなに嬉しい事を言ってくれるんだろう。  私の顔が涙で濡れ、雫が溢れていた。 **** 「ただ、咲は仕事柄、防音設備が整った部屋が良いだろ? こんな事を俺が言うのも気が引けるんだけど……」 「え? なに?」 「俺が咲の部屋に引っ越ししてくるのはどうかな? 何か言ってる事がカッコ悪過ぎて情けないんだけどさ……」  私の事をそこまで考えてくれ、理解してくれる彼には、有り難い気持ちしか無い。 「カッコ悪過ぎなんて事はないよ。すごく有り難いよ。私の事、こんなに考えてくれるんだもん……」  そこで私は一つ思いついた。彼が何て言うか、わからないけれど。 「ねぇ。春樹くんがここに引っ越してくるなら、高校時代に使ってたバリトンサックスも持参したら?」  私の提案に、今度は彼が瞠目した。
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