24人が本棚に入れています
本棚に追加
「よし。落ち着いてきたところで、改めて言うよ」
「うん」
平常心を取り戻した彼に、私は微笑みかける。
「咲。俺と…………」
春樹くんは、緊張しているのか、再び大きく息を吸って吐く。
「…………俺と結婚を前提とした同棲をしないか?」
彼は照れていたのか、早口で捲し立てるように言った後、呼吸を荒げながら私を見つめた。
まさか、結婚まで考えてくれていたなんて、考えすらしなかった事だ。
春樹くんを見つめる私の視界はグニャリと歪み、熱を帯びた雫がポツリとフローリングに落ちた。
「ねぇ……私で…………いいの? 仕事は不規則だし、地方公演で家を空ける事も多いんだよ?」
「すれ違いが多くなってきたからこそ、結婚を前提とした同棲をしないかって言ってるんだろ?」
彼の大きな手が私の頭を包み、穏やかに笑いながらクシュクシュに撫で回した。
「互いにできる事を模索しながらやっていけば良いって、俺は思ってる。何よりも、俺は咲の夢を、これから先も見続けていきたい」
ああ、この人は何でこんなに嬉しい事を言ってくれるんだろう。
私の顔が涙で濡れ、雫が溢れていた。
****
「ただ、咲は仕事柄、防音設備が整った部屋が良いだろ? こんな事を俺が言うのも気が引けるんだけど……」
「え? なに?」
「俺が咲の部屋に引っ越ししてくるのはどうかな? 何か言ってる事がカッコ悪過ぎて情けないんだけどさ……」
私の事をそこまで考えてくれ、理解してくれる彼には、有り難い気持ちしか無い。
「カッコ悪過ぎなんて事はないよ。すごく有り難いよ。私の事、こんなに考えてくれるんだもん……」
そこで私は一つ思いついた。彼が何て言うか、わからないけれど。
「ねぇ。春樹くんがここに引っ越してくるなら、高校時代に使ってたバリトンサックスも持参したら?」
私の提案に、今度は彼が瞠目した。
最初のコメントを投稿しよう!