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不可能犯罪
「そうなのよ。信じられないでしょ。だいたい妙齢の女性は、高遠雅さんって言うんだけど。優しくて誰かに怨まれるような人じゃないって、ご近所でも評判なのよ」
リオ警部補はボクにも解りやすく事情を説明した。
「ふぅん、そうですか。じゃァ怨恨による犯行じゃなくって。モノ盗りによる犯行なんでしょうか?」
怨恨でなければモノ盗りだろう。それにしても最近は日本も物騒になったものだ。
白昼堂々と資産家の女性を狙っての犯行なのだろうか。
「ええェ、そうね。でもモノ盗りだとしても金品にはまるで手がつけられてなかったそうよ」
「はァそうなんですか」
ますます動機が不明だ。
「駅前の路地を抜けようとしたら突然、誰かに背後からコンクリート片で殴られたって言うの」
リオの説明によれば、防犯カメラには容疑者らしき姿は映ってなかったようだ。
両側はビルが建っているが路地に面しては窓はない。屋上からコンクリート片を落としたとも考えられたが、屋上は通行禁止になっていた。
誰かが屋上へ入った形跡がない。
つまり何者かが屋上からコンクリート片を落としたのではなさそうだ。
しかしそうなると不思議だ。
真犯人は高遠雅をコンクリート片で殴りつけたあと、こつ然と路地から姿を消したのだ。
まさに幽霊みたいに真犯人は消失した。
いったいどこへ消えたと言うのだろう。
「ふぅん、なるほど」
ボクは腕を組んで考えた。
そうなると愉快犯による通り魔的な犯行なのかもしれない。
動機なき犯行だ。
無差別的な殺人未遂事件と言っても良いかもしれない。
いずれにしても犯人が消失したトリックが不明だ。
ボクもワイドショーなどで事件を見ただけなので詳しい状況はわからない。
そこへ突然、スマホのスピーカーから少年らしき声が響いた。
『フフゥン、じゃァ取り敢えず犯行現場の路地まで行ってみようか?』
ナポレオンの声だ。
「ああァら、久しぶりね。レオン!」
石動リオは嬉しそうに猫なで声をあげた。
彼女は彼のことを『レオン』と呼んだ。
美少年のナポレオンはリオのお気に入りだ。
『ああァリオ。相変わらずキレイだね』
子供に似合わない売れっ子ホストみたいなセリフだ。しかしナポレオンが言うと様になった。
「フフッ、上出来ね。しばらく会わないうちにお世辞も言えるようになったのね。レオン!」
リオも満更でもないようだ。
それにしても親戚のオバさんみたいなモノの言い方だ。
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