とある、彼氏の日常

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とある、彼氏の日常

「ねぇ、見てみて!優くん。〈エイプリル・フール限定の交換日記〉を手に入れたよ〜♡」  現在、四月一日 九時。自宅内にて。  俺、上戸 優斗。二十歳 独身。県立の大学に通いながら一人暮らしをしている。  1Kのアパート一室借りつつ、昼間は大学の授業に、夜はBAR【黄昏】という店で見習いとして働いている。  最近は、虎徹 弁天という先輩から基礎を少しずつだけど教えて貰っている最中だ。  バイトを始めて三ヶ月。今でも雑用が仕事の俺に勤務時間の合間と、終了後にカクテルに使用する氷の作り方、基礎中の基礎である〈ストレート〉の作り方などを熱心に教えてくれる先輩に、俺は尊敬している。  先輩は、十八歳の時に今の店の認知症じゃなかった……オーナーの作るカクテルに惚れ込んで弟子入りしたらしい。そんな虎徹先輩は、今では指名を多く貰える程の実力の持ち主だ。 ◇◇◇  バイト初日から、洗い物をしていた俺。  この店に在籍しているのは、オーナー、虎徹先輩と俺の三人のみ。  横目でチラリとカウンターの方を観ると、〈羊谷さん〉という弁護士から指名を貰っていた。  とても知性的な雰囲気で涼しげな猫目の女性客。緩やかウェーブがかった翠寄りの焦茶色の長髪は、上品な色気が滲み出ており〈the 大人の品格〉を現している。  最初は、モヒートから始まり、カンパリオレンジと続き、少しずつだがアルコール度数高い物を注文していく。二十杯も! 「耀さん……、アンタ飲み過ぎだよ。明日もシゴトだろ?」 と、これ以上の酒の摂取はNGと虎徹先輩が伝えると。 「えー!久々に日本に帰って来たのに〜。ねぇ、ねぇ。そんな事よりまた女子会やろうよ!前回みたいに女子会温泉旅行に行かない?荷物持ちは……そうねぇ、今回は粗チ◯猿に頼むってどう?」 「ちょッ、アンタ。今、猿堂さんはアメリカだろ!?というか、ここ公共だから言葉を選んでくれよッ!!」 「大丈夫よ〜!誰も聞いちゃいないわよ。それに風羅ちゃんも一緒だからって言えば来るわよ。だってアイツさ、嵐くんから風羅ちゃんの写真を貰ってオカズにしているからね。ソレを使って、一人で《   》して、◯◯◯したり、最後は玩具使って《   》を慰めてるから。だから、大丈夫よ〜」  そんなやり取りを耳にした俺は、頭の中がフリーズする。  そりゃそうだ、あんな美人の口から放送禁止用語の連発が笑顔付きで吐き出されたのだから。  最初は俺の空耳だと思っていたが、現在は日常の一部だと思い流している。  バイト二日目。 「ーー信じられねぇ!羊谷のヤツ。俺を騙しやがったッ!!」  今度は半分金髪、半分黒髪の短髪のヤンキー男が、虎徹先輩を指名していた。しかも、店に入って泣きながらだ。  もう、涙と鼻水が混ざり合って汚くなっている表情に、同じ男として静かにドン引きし目を伏せてしまう。  そんな状態の客に虎徹先輩は、話を聞きながらカクテルを手際良く作っていく。 「羊谷の下品女が、 『今度、私達女子会で温泉に行くけど。アンタ、暇つぶしに荷物持ちをしなさい。あ、そうそう。風羅ちゃんも来るから』 と言われたから、シゴトをサクッと終わらせてアメリカから帰国したのに……。そうしたら、コブ付きだったんだぜ!!風羅ちゃんに付き纏っているオッサンがいるなんてッ……!」 「いや……、猿堂さん……。あのさ、そのオッサンは〈風羅の彼氏〉だから!というか、オレもその旅行に参加していたから、知ってるし」 「いーーやーーだァァア‼︎あのオッサンが風羅ちゃんの彼氏だなんて……そんな嘘引っかかんねぇから‼︎ん?もしかして、……今日エイプリル・フールか⁇」 「んなわけ無いだろッ‼︎アンタ、いい加減現実を見なよ。オレより五歳年上で本家の現当主なんだから、しっかりしてくれ!あと、ここ公共の場だから叫ぶな。はい、〈ブルー・ムーン〉でも飲んで元気出せよ!猿堂先輩」  二日目の勤務でそんなやり取りを観た俺は、此処はBARじゃなくて、大人保育所じゃないかと悟ってしまった。  それから、幼女ように可愛い顔をした男性〈子島(ねしま)くん〉と〈神龍時の四男坊くん〉コンビに、これぞ大和撫子と言わんばかりの可憐な〈丑崎さん〉。神龍時さんの三男坊くん、次男坊くんが虎徹先輩を指名しカクテルを注文する。  先輩曰く、「三男坊は無賃KY野郎だし。次男坊は、腹黒の金の亡者だから気をつけな」……、らしい。  最近では、暴走族感丸出しのリーゼントヘアースタイルの中国人と輩感満載の黒髪のお兄さんが来店している。 「オイ、酒吧侍者(バーテンダー)。あの下品女何とかしてくれよ!おめぇも参加した先日の温泉旅行の時に、 『ねぇ。リーゼントゴリラ。自分のテクニックに自信無いならソー◯へ行ってきて学んで来たら?そうすれば、風羅ちゃんを満足できんじゃないの?もし、不能なら病院紹介するわよ?』 と居酒屋で、言いやがったんだぞ!アイツ」 「俺なんて、 『残念イケメン、アンタもよ。そこのリーゼントゴリラと同じか、それ以下なんだから。ちゃんとこの現代の理を学びなさい』 と言われたんだぞ‼︎」  そんな苦情内容を聞いた虎徹先輩は、カクテル作業をしていた動作が止まり、口元をヒクつかせ表情を曇らせる。  そんな残念イケメンもとい、黒髪のオールバックお兄さんの言葉はまだ続く。 「あと、子島ってガキもそうだ。先日、借家でコイツと酒飲んでる時に神龍時の次男坊と押しかけてきて、 『わぁ、推しカプのツンデレ男嫁さんだぁ!!サインして下さい!そして、精◯付きディープキスと種◯けプ◯ス、イく表情などスケッチさせて下さい。あ、あと、できたら情事後の◯ェラシーンもお願いしますッ!!』 と卑猥な言葉を言われたんだぞ、俺!!現在で言う、セクハラになるんだろッ!?コレ」  その話を聞いた瞬間。 「うちの友人達が、すみませんでした。主に最後、腐男子の子島が本当に申し訳ありませんでした」  先輩は、銅色のベリーショートヘアーの頭を静かに下げたのは、昨日の事のように覚えている。  まぁ、こんな感じで色んなお客さんが虎徹先輩を指名しているのを今日まで見てきた。そんな先輩のように指名を貰えるように日々奮闘している。  ちなみに、虎徹先輩は〈女〉である。  そして、そんな修行中の俺に恋人がいる。  天童 優香という幼馴染。俺達の名前の一文字が同じ〈優〉という繋がりで幼稚園内で、親同士が仲良くなったのがキッカケだった。  それから幼少期からずっと一緒に過ごし、高校生卒業の時に俺から告白して優香と結ばれた。  話を戻すが。  本日、四月一日。そんな彼女から渡されたノート一冊。  目の前にじゃーんと、効果音が出てしまうくらい勢いよく見せてきた優香に思わず、ソレをを手に取ってしまう。 「equivalent exchange……?」  B5サイズの革カバーで覆われているシステム手帳型のノート表紙に記載されている文字。  思わず、独り言を呟いてしまう。 (〈equivalent exchange〉って、確か……)  何処かで知ったような英語を、思い出そうと過去を巡らせながらベルト式のアンティーク調の黄銅色の留め具付きを解く。  重圧感のある黒に近いワイン色のカバー、牛革だろうか?とても手に馴染む。共に一針、一針、丁寧に縫われている状態のソレは、専門店で販売されている高級感を漂わせる代物だ。  開いてみると、しっとりと滑らかで上質さが分かる用紙。ソレはリフィル式のリングで止められている。 「優香、コレどうしたんだい?」  まさか、俺を喜ばせる為に無理して購入したしたんじゃないか、と察し彼女に問いただした。  
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