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こんな現場で働かずに、いつも通りキッチンに引きこもっていれば、しょうもないことを考えないで済んだのに。無駄なエネルギーを消耗してしまったな、と大きく伸びをした。
「さっきはすまん」
撤収作業中、背後から声をかけられてびっくりした。
振り返った先で、額に汗を浮かべた神庭が肩で大きく息をしている。
ライブが終わってからまだ数分しか経っていない。一体何を急いで渚の元へ来たのか、怪訝に思いながら彼を見上げた。
汗で濡れた神庭を見てどきりとする。涼しげで余裕のある彼しか知らなかったので、いつもと違う雰囲気に心臓が変な鼓動をしていた。
汗を拭いてもらおうと、未使用のふきんを手渡す。そのとき、ふいに指先が触れた。お互いに無言で目が合う。
「なにも、謝られるようなことは……」
気まずくて渚のほうから口を開いた。
ゆるゆると首を横に振ると、神庭は「いや、さっきは無礼なことを言ってしまった」と頭を下げてきた。悪いことだと分かっているのなら、どうしてああいう態度を取るのかな。
「ひとつ、聞きたいことがある。君の店の名前を教えてくれ」
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