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北方に位置する国であるカリメルンは、早春とはいえまだ寒さが身に染みる。
石造りの調理場にはひとつだけ窓があり、その向こうには朝日に照らされる雪が見えた。
忍び寄る冷気がじわじわとつま先から凍えさせる。薄着な上に、履き古されている靴には穴が空きかかっていた。が、毎日手入れしているので清潔で汚れひとつない。
凍てつくような寒さは全く問題ではなかった。鍋がコトコトと煮えるようすを見守るのが、至福の時間であり、その幸せの前では寒さなど吹き飛んでしまうのである。
木べらで鍋底を混ぜると湯気が真っ白に沸き立った。うまみの濃縮された香りが鼻先をふわりとくすぐり、思わず顔をほころばせる。
調理場の入り口をノックする音がした。こんなふうに律儀な人はひとりしかいない。胸が自然と高鳴った。
「調子はどうだい」
「陛下――」
キッチンに顔をのぞかせたのは、カリメルンの若き王だった。そして、ナギがひっそり恋焦がれる相手である。
しかし相手の身分が身分だ。恐れ多く、ナギは名を呼ぶことさえできない。
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