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公務終わりの陛下は襟元を緩めた。正装の彼が底冷えする調理場に佇んでいる光景を民が見たらひどく驚くだろう。陛下に寒くてうす暗い場所は似合わない。
彼は興味津々に鍋をのぞきこみ、固い冬芽が緩むように表情を柔らかくした。
「お前の作るスープはいつも美味い。一体どんな魔法を使っているんだろうかな」
「僕が魔法をろくに使えないことなんて、陛下が一番ご存じなんじゃないですか?」
彼はこまったように眉を下げ、ナギの頭にポンと手を乗せてくる。
「な、なにするんですか」
「ん?」
質問は笑ってごまかされ、そのまま頭を撫でられた。優しい手つきに、心臓がきゅっと切なく縮む。寿命も縮んだ気がする。
――縮んだ時間を陛下に分けられたら、どれほど良かっただろう。
叶うことのない望みを、感情を教えられたのは、陛下と出会ってしまったせいだった。
代々カリメルンの王になる家系は、民と比較して極端に寿命が短い。国の優秀な頭脳が膝を突き合わせて研究をしているが、原因は不明のままだった。
ナギが城のキッチンで働くことになったのは、二年前のことだ。街に貼りだされていた求人を見て、ダメ元で面接へと向かった。
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