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叔父の経営する小さなレストランの手伝い程度の経験しかないナギが受かるわけがない。
ただ、一度自分の腕がどこまで通用するのか知りたかった。
そのとき、味にうるさい陛下が唯一「うまい」と言い放ったのがナギのスープだったという。他の人たちは「美味しいが特段というわけではない」評価だったが、陛下の一言でナギの採用が決まったと聞いた。
それからナギはスープに期待をかけられた料理人として働くことになった。他の調理もできるが、いかんせんナギの人見知りがひどく、次第に他の職人たちから浮いていき、気づくと独りぼっちになっていた。
「味見をさせてくれないか?」
スープは完成していない。だが、彼のきらきらした瞳に気圧されて、琥珀色のスープを取り皿にすくった。
「ん? スープだけか? 具も食べたい」
不満げに鍋のお肉を指さされる。子供のような純粋な仕草に、普段は人に見せない陛下の一面を独占できるのは自分だけだという優越感を抱いた。
「まだ煮込みが足りないかもしれないです」
「気にするな。大丈夫だろう」
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