2.前世

5/9
前へ
/76ページ
次へ
 陛下は嬉しそうに肩を抱き寄せた。あと数刻火を入れられればより美味しいのだけれども。うーん、と小首をかしげながらナギは具の柔らかさを確認し、取り皿に一切れの芋を取り分けた。  じゃが芋に、貴重な塩蔵肉、香味野菜をじっくり煮込んだシンプルなスープは、過酷な北国カリメルンの冬を乗り切るメニューである。  厳しい冬を終え、暖かな春が来ればもっと栄養のある甘いスープを作れる。  豊富な雪解け水が大地を潤し、色鮮やかな新芽が現れるはずだ。 「そうだ。陛下、何かスープのリクエストはありますか? 今日みたいな地味なスープじゃなくって、春のおいしい食材で、陛下が召し上がられたいもの」  幸せそうだった陛下の表情が陰る。頭をぎゅうっと抱き寄せられ、厚い胸板に顔を埋めさせられた。力いっぱい抵抗するが、陛下の腕っぷしにはかなわなかった。 「地味なんかじゃない。素朴でナギのよさが出ている唯一無二のスープじゃないか」 「勘弁してください……」  過大評価だ。ナギは本気の困惑半分、気恥ずかしさ半分で溜息とともに、されるがままに身をゆだねた。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加