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埼玉にあるアリーナ施設で、国民的アイドルと呼ばれるグループのコンサートが3days開催されている。
表にエレクトストーム、とグループ名の入ったアドトラックが駐車されているのを見かけた。メンバーの名前が大きく印刷されたのぼり旗が掲げられ、記念撮影をしようとするファンが列をなしている様子はお祭り騒ぎそのものだった。渚はそんな騒々しい現場に嫌気がさしていた。雑誌の撮影現場ならもう少し静かで気が楽だったのに、とつい暗い顔になってしまう。
春先にもかかわらず、背中にじっとり緊張の汗をかいていた。出発前に共同経営者である紀平と交わした会話を思い出す。
『ケータリングとはいえ、現地にスタッフがいないとトラブルが起きた際に対応できないだろう?』
『まあ、そうだけどさ……。僕がこういうの本気で無理なの知ってるよね?』
『最終日だけだから。頼んだぞ』
肩をたたかれ、渚は冷静な紀平に丸め込まれてしまったのだ。もともと、今回も通常どおりに初日と二日目は渚の出番なく、現地のことは従業員に任せられていた。が、最終日の今日だけはどうにも人員の都合がつかなくなったとのことだった。
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