45人が本棚に入れています
本棚に追加
「お、来たか。お疲れ様」
ご指名いただき光栄です、と伝えるべきなのに、真っ先に渚の口をついて出たのは現状の確認だった。
「他の業者はいないんですか?」
「お前ん店だけだ。だから言っただろう、食べ応えのあるスープを準備してくれって」
「そ、そういう意味の食べ応えですか……?」
何をいまさら、とでも言いたげな顔を向けられて言葉を失った。楽し気な会話でざわめく会場で、ふたりの間だけ静寂が広がっている気がする。
「しょ、少々お待ちいただけますか――」
店に残っているはずの紀平に頼めば、何とかなるだろうか。はやる気持ちを抑えながら店に連絡を取ると、「なんすか、忘れ物っすか」とけだるげなバイト君の声が返ってきた。
店番はよりによって一番絡みづらいヤンキーじみたバイト君だった。思わず天を仰ぐ。紀平はいないのか、と訊くと「仕入れに行ってるっす」と面倒くさそうに言われた。
となると、移動中か。携帯に連絡を取っても無駄に終わる可能性が高い。
必死に頭を回した。追加メニューの指揮は自分が取らなくてはならない、ということだ。
最初のコメントを投稿しよう!