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今日くらい自分が出るべきだと頭で理解していても体が重く、気持ちは沈む。
ひとりでスープと向き合いたいのに、どうして世間はそうさせてくれないのか。
『お前のスープを世間に知ってもらうべきだ』
と渚をそそのかし、店を強引に開業した紀平を恨めしく思う。
紀平は大学の同期で、現在店の実質代表であった。
長髪をお団子にしたマンバンヘアなのも相まって、紀平がメインシェフと勘違いされることも多い。そんな彼が、生まれながらの引きこもり体質の渚の代わりに、経営面のあらゆる業務を担ってくれていた。
だから、このスープ屋がどれだけの利益を生み出しているのか、はたまた大赤字経営なのか渚はそのあたりを全く知らない。一度、紀平にお金のことを尋ねたが「そんなこと気にしないでスープだけ作ってろ」とうやむやにされた。
「おはようございまーす」
「ひっ、あ、お、おはようございます」
すれ違いざま、関係者らしき人に挨拶をされて、渚は顔をひきつらせる。
すると一瞬、不審そうに通行証の有無をチェックされた、気がした。
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