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本当はもっと春らしい素材を使いたかったが、限られた時間と調理器具で行うのはこれが限界だった。
しかし、渚が力をこめたのはそこではない。あの、と神庭に声をあげた。
「桜エビは? 一番腕によりをかけた春の新商品なんですけど」
見た目の映えも意識したものだった。ジャガイモベースにアスパラガスの黄緑色を生かし、桜エビをぱらりとちらし、ピンクペッパーをお渡しする前に挽く。
「ああ……」
曖昧な返事に本当にこの人は僕の作るスープに興味がないのだな、とがっかりした。
どうせポトフも覚えていたから答えただけだ。
神庭から市場調査をするのは難しい、とあきらめて、渚は片付けに戻る。
「……帰るのか?」
「はい?」
当たり前だろう。神庭の変な問いに思わず振り返った。
「お邪魔しましたけれども――だって、この会場も撤収時間あるでしょうし」
「そうだけど、それだけじゃなくて、さ」
神庭はネットニュースの画面を見せてきた。そこには国道が事故のため通行止めになっているという速報が載っている。拠点のキッチンへ戻るためには避けては通れぬ道だ。
「え……」
「他のルートで帰れそうか?」
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