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ソファもこんな風に使われるだなんて予想していないだろう。テーブルもペットボトルの水がひとつ置かれているだけで、机としての用途を全うできていない。
ケータリング業者と芸能人は、共通の仕事や空間にいることで親近感が沸くこともある。だが、渚はそれが苦手だった。きらきらした生き物に存在を認識されたり、自分を噂されたりすると顔がひきつってしまう。と、気まずい雰囲気になる。
ソファの背もたれ越しに、美しい顔を見つめた。同じ人間とは思えない。滑らかな肌に、美術館の彫刻のようにはっきりとした目鼻立ち。意思の強さを映し出すかのような眉。
「ん……」
眉間にしわがより、ぱちりと目蓋が開いた。
が、すぐに閉じた。
「あの、ベッドありがとうございました。道路も復旧したそうなので失礼いたし――」
「ちょ、待っ」
身をガバリと起こし、立ち去ろうとした渚の腕は強く引き留められた。
「……何ですか、急に」
「一年間、俺が休業していたのは知ってるだろう」
詳しいことは全くわからない。渚は首を横に振った。
「そうか。珍しいな」
じっと目を合わせられる。もの言いたげな眼差しが揺れて、そらされた。
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