3.今世-ずっと好きな人がいる

16/17
前へ
/76ページ
次へ
 気味が悪い。渚は神庭にきつい視線を向けた。神庭はもの言いたげな表情でこちらを見てくる。火照るどころか、血の気が引いて鳥肌が立っていた。 「帰ります。そこをどいてください!」  扉をふさぐ神庭の胸板を強く押した。しかし彼は微動だにしなかった。頭の上から低い声が降ってくる。 「ここを出したら、お前と二度と会えないだろ」 「わかってんじゃん」  会いたいわけがない。こんな奇妙なことをいうやつと。 「今世では離さない」 「変なこと言ってると通報しますよ」  腕をつかまれ、思い切り振り払った。そのはずみに手が神庭のあごに当たったごつん、と鈍い音が響いて怯む。 「今の現状だと捕まるのは渚さんです」 「……っ、うるさいっ」  渚は肩で息をする。飄々と見下ろす神庭が憎らしかった。  ここまで強情なやつを相手にするのは初めてだ――。  初めて、のはずだ。  妙なところに引っ掛かりを覚え、自分の顔をつねった。しっかり痛い。これは夢じゃなく、現実だと分かった。唐突にシンクの方で、ぽたぽたと水の滴る音がする。 「顔を見せろ」
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加