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渚のようなナヨナヨした男子が力仕事の現場にいるのは不自然だろうし当然の反応だ。中性的な見た目ではあるがアイドルみたいな華も堂々とした態度もない。不審者がバックヤードに忍び込んだと思われても仕方ないんじゃなかろうか。
早く帰りたい、と渚は天を仰いだ。
「……っ!」
顔を叩いて気合を入れる。そうでもしないと、やってられなかった。慣れない作業に手間取りながらケータリングの設営を終える。
リハーサルが終わったタイミングなのだろうか、汗だくのメンバーたちが渚の前を丁度、通りがかった。
「ホットミールです、スープは二種類ございます」
渚の当たり障りないセリフに、ひとりが立ち止まってくれる。連れの四人も足を止めた。
「初めて見た」
「スープだけの店?」
五人の中でもひときわ若い少年が目をキラキラさせて鍋の中を見つめていた。手早く使い捨てのカップに味噌汁と根菜スープを注ぐと、少年は嬉々として手を伸ばしてくる。
が、渚と少年の間に男が割り入ってきた。
「耳。スタッフさんも、塞いだほうが――」
突然自分にかけられた言葉に戸惑っていると、その男は少年のイヤモニ線を荒い手つきで引っ張った。
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