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陛下がカリメルンへ戻らず、十年の歳月が経った。王の座には弟君が着任し、国は悲しみから脱却しつつある。
秋は実りの季節だ。雪で閉ざされる冬を前に、作物の収穫が盛大に行われている。収穫祭で城下町が賑わうのが遠くからきこえてきた。
前陛下のことを思うと寂しくなる時もある。しかし、今の陛下様は頼りになるお方で、国民は安心しているから大丈夫――と、胸の内で自分に言い聞かせた。
「ナギは陛下と仲がよろしかったのに」
と、周りの人に慰められたときは驚いた。人前で睦みあうことはなかった。なのに、関係を知られていたとは。
「それは勘違いです。僕だけを特別扱いしていたのではなく、陛下は皆を愛していらっしゃいましたから」
気持ちを押し殺し、同じ言葉を繰り返した。
何度新しい朝が来ても、陛下は戻らない。
ある日、弟君が調理場へ来た。
「……陛下」
「その呼び方はやめてくれないか、むずむずする」
現陛下は困ったように笑う。でも、と返したくても不敬に値するため迂闊な言動はできなかった。
「一体君は、兄にどうやって付け入ったのかと思ってね。聞いておきたかったんだよ」
「……っ」
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