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「大して旨くもないスープを兄さんはなぜ好んでいたのか」
鈍刀で刺されたような痛みだった。
「押し黙るんじゃない。答えろ」
弟君は寸動鍋を足で蹴り、ガコン! と騒々しい音が響く。
「……っ!」
怒りよりも悲しさが強かった。どうして弟は、料理人の大切な道具を蹴るなどといった行為が平気でできるのか。
彼が国王であるという事実に落胆する。
後で聞いた話によると、陛下と弟君に血のつながりは無いそうだった。
人間はある一点を嫌いになってしまうと、それに関わるもの全てが無理になってしまう。だから、弟君は兄を疎ましく思っていたのだろう。そしてナギのことも気に食わなかった――と。
料理人をクビになり、ナギは城の外へ追放された。落ち葉舞う風の強い日のことだった。乾いた冷たい風に吹きさらされ、体の芯まで悲しくなった。
料理にはハレとケがある。晴れの日と、普段のものだ。
王族の方に出すスープは、基本的にハレのものばかりだった。陛下が好きだったゴロゴロ芋のポトフも、平民にとってはハレのスープだ。
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