4.前世

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「大して旨くもないスープを兄さんはなぜ好んでいたのか」  鈍刀で刺されたような痛みだった。 「押し黙るんじゃない。答えろ」  弟君は寸動鍋を足で蹴り、ガコン! と騒々しい音が響く。 「……っ!」  怒りよりも悲しさが強かった。どうして弟は、料理人の大切な道具を蹴るなどといった行為が平気でできるのか。  彼が国王であるという事実に落胆する。  後で聞いた話によると、陛下と弟君に血のつながりは無いそうだった。  人間はある一点を嫌いになってしまうと、それに関わるもの全てが無理になってしまう。だから、弟君は兄を疎ましく思っていたのだろう。そしてナギのことも気に食わなかった――と。  料理人をクビになり、ナギは城の外へ追放された。落ち葉舞う風の強い日のことだった。乾いた冷たい風に吹きさらされ、体の芯まで悲しくなった。  料理にはハレとケがある。晴れの日と、普段のものだ。  王族の方に出すスープは、基本的にハレのものばかりだった。陛下が好きだったゴロゴロ芋のポトフも、平民にとってはハレのスープだ。
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