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苦笑いして話を切り上げた。
今のは一体何だったのか。
自分の前にさえぎるように立った男の背格好に不思議と見覚えがある。しかし知らない服を着た男の姿はぼんやりとしていた。
一体何を見させられのか。目の奥が痛み、かすかに吐き気を催した。
うつらうつらしていた。ぼんやりとした視界に人影がある。あ、スタッフが寝ていてはだめだ、と思うけれども体は金縛りにあったかのように動かない。
「……うまい」
ひとりごちた男の手が伸びてきた。その手は渚の頭を撫でてくる。
指先が唇に触れて、しばらく動きを止めた。そしてふっと鼻梁にやわらかいものが当たった。心臓が跳ねる。神庭、なのか。それとも、別の誰かなのか。
「……起きろ」
肩を強く揺さぶられ、脳みそがぐらぐらした。目を擦ると衣装姿の神庭が不機嫌な顔で渚をどついていた。
「腹減った」
スープ鍋を見ると空っぽだ。いつの間に。渚がぼんやりしている間に皆が取っていったのだろうか。
やってしまった、と背中を冷たい汗が伝う。安くないお金を貰って来ているのに……。
激しいダンスを終えたのであろう神庭の額には汗で髪が張り付いていた。
「謝るな」
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