6.今世-天文台

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 頭を下げかけた渚を神庭はけん制する。「う」と渚は動きを止めた。 「こんなことでいちいち謝るからお前はいつも苦労するんだよ」  もっと傲慢でいいんだってば、と神庭は知った顔をしていう。それは神庭が著名人だからであって一般人は違うんだよ、と思う。なので神庭の忠告は無視して「大変申し訳ございません、速やかに夜食の準備を」と伝える。 「ったく」 「なにがですか」 「俺のアドバイスをお前は本当に何も聞かないんだなと思ってさ」 「……恐れ入ります」 「はあ?」  っまーかわいくない。ぷん、と渚は心の中で憤怒して鍋を持ち上げた。大鍋二つがきれいに空っぽだ。もしも次呼ばれることがあったら、倍量持ってきてもいいかもしれない。  逞しい腕が隣の空鍋を持ち上げた。 「これも持ってくんだよな」。 「助かる。ありがとう」  神庭を見上げると視線が交差した。気のせいか、普段より優しい目をしていた。
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