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夏とはいえ、標高のある山間部の夜は冷え込んでいる。
渚は神庭に引き連れられて、宿から天文台へと歩いていた。街灯は少なく、月明りだけがたよりだ。都内とはくらべものにならないほど静かで、暗い空には、星空が広がっている。心の底から美しいと思った。夏の大三角もきれいに見える。
大股で歩く神庭の背中に声を張り上げる。
「僕は、一名で部屋をとったはずなんだけど」
「ん? そうだね」
「そうだねじゃないってば。何で神庭さんと相部屋になっているんですか」
宿に戻ったのは午前三時。わざわざこのためだけに女将さんを呼ぶのもためらわれた。
いくら鈍いやつでもわかる。これは間違いなく、神庭の確信犯だ。偶然などではない。
相部屋にされた、と気づいたのは後片付けを終えて、部屋の鍵を開けたときだった。人の気配がする。どういうことだ、と固唾をのんでそっと様子を伺うと、大きな男物の靴がかまちにおかれていた。で、ヒソヒソ声で言い争っているうちに外へ出ることになった。
「だ~か~ら。同じ部屋が嫌ってゴネるから、こーして散歩に連れてってやってんだよ」
「別にお散歩したいわけじゃないんですけど」
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