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「難癖つけんじゃねえよ」
んでもよ、と神庭は空を見上げる。
「せっかく長江まで来たのにキレーな星見てないだなんて勿体なさすぎるよ」
「仕事ですから別にいいです」
「あっそ」
「ここでも十分綺麗じゃないですか」
「高台のほうがもっとよく見えたよー」
渚がなんと言おうと、天文台に連れていくのは神庭の決定事項のようだった。
時折冷たい風がほほをたたく。神庭の歩幅は大きく、気を抜くと置いていかれそうになった。
アイドルが特定の人物と個人的に会うのはよくない、そんな当たり前のことくらい神庭が理解しているはずだった。
――どうして僕に構うのだろうか。
引き返すこともできた。けれど、今日はこのまま付いて行ってもいいかも、と思えた。
世界最大級の電波望遠鏡を有す国立長江天文台は、観測の障害になるような振動、電波等の少ない場所に設置されている。それゆえ、日が沈むと本当に静かで、空は真っ暗になる。レンズを覗き込む望遠鏡ではないから、明るさは関係ないはずだけれども。空気はとても澄んでいて気持ちがよかった。
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