46人が本棚に入れています
本棚に追加
神庭たちは内部の様々な所で撮影をしていたようだが、渚はただのスタッフなので、ここで一番有名な巨大望遠鏡や、ミリ波干渉計を結局見られずじまいだった。
門は閉まっていた。当たり前だ。深夜に開いているわけがない。
神庭は「完全に忘れてた」と頭を掻き、がしゃん、と門を背にもたれかかった。
向き合うと、神庭の髪は夜風に揺れていた。
「言葉にするのもバカバカしくて嫌んなるんだけどさ、門乗り越えちゃえ、とかルール違反なことは性根からできないんだよね。どうしても、国の代表だった頃の……が染みついてて」
また、前世の話だ。
思わず眉を顰める。神庭の言っていることがまるで嘘とは断言しきれないのも、渚を困惑させる理由だった。
「怖いんだろう?」
神庭は穏やかな声でいった。その声は渚の隙間にすっと入り込んで、はまる。神庭はなにが、怖いと思ったんだろうか。自分のことなのに、神庭のほうが理解しているような気がする。
「……怖い?」
「俺は男が好き、と公にしているけれども」
暗い空に流れ星がひとすじ走る。
「渚に、何の心配もせずに、意識してほしいからだ。誰でもいいわけじゃない」
最初のコメントを投稿しよう!