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思い返せば、過去に神庭の相手として噂になった男はいなかった。それに対し、渚はゲイと言いつつも、プライベートのガードが固いのだろうと思い込んでいたのだけれども
「女性が恋愛対象というわけでもない」
神庭が身を起こす。立ちすくんでいた渚の手をとり、「冷えてるから手短にすます」と覚悟を決めたように言った。
「今世では、これ以上心を許してもらえないみたいだな。すまん。今までの無礼を許してくれ」
名残惜しそうに渚の頭を撫でた。
「忘れてくれ。全部、俺の勝手な妄想だった」
驚きのあまり言葉を失った。神庭みたいな人を忘れるなんて無理だろう。毎日毎日いやでも顔を見かけるような国民的アイドルだ。
語尾がかすれ、苦しそうな表情が薄暗いところでもわかった。状況が理解できないうちに、神庭にひどいことを言わせてしまった、ということだけは明らかだった。
「だから」
切なげに顔をゆがめ、神庭はこつんと額を当ててきた。
「……だから、」
神庭の頬をつうっと一筋涙がつたう。
「……っ、ま、待て」
小さく首を横にふり、渚の肩を正面から抱き寄せた。神庭は瞼をきつく閉じてキスをしてきた。
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