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唇は冷たく冷えていて、目が冴える。渚は目を見開き、息をするのも忘れてしまった。時間にしてたった数秒のことであるはずなのに、長い時が経ったようだ。一秒が一日に、一年にも感じられた。
静かに肩を押し返される。唇に感触が残っていた。
胸が苦しかった。息の仕方を忘れてしまったみたいに苦しくて、苦しくて。渚はしゃがみこんだ。地面から土のにおいがする。
「距離を置きたい。この曲がリリースされる、一か月後まで」
「……長いよ」
同じ目線までしゃがみこんだ神庭がつぶやいた。
「たった一か月だ。むしろ短すぎるかもしれない」
前世からの記憶を持ち、永いときを生きる神庭にとっては一瞬だろう。だが、普通の人間である渚にとって、神庭に会えないのが一か月あるというのは十分に長い。
好きになってしまった、と思う。
「一月後も、忘れられなかったら付き合ってくれないか」
「……!」
始まる前から結論なんてわかりきっている。渚が神庭を忘れられるわけなんてない。当然の結末を迎えるのに待つ時間は無意味にしか思えない。納得できないまま、渚はぎこちなくうなずいた。
「ほら、つかまれ」
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